歪んだ月

 
 
 ローズの剣は7歳を迎える頃には力では劣るものの、技術としては大人を打ち負かすほどとなった。
また、呪文に関してはまるでスポンジのように次から次に習得し、戦士としての才能を十分開花させていた。
だが、その反面人に対しては酷く臆病で友達と言えるのは同じ剣を習うソーズマンと、よく怪我の治療や薬草集めの手伝いにたちよる家にいるプリーストぐらいでほとんど他の子供とは会話らしいものをしたことがない。
人と接することが苦手なローズは風の強い日や、村の人がお祭りに行っているときなどは1人家にこもっているほどだ。
自分に対する自信のなさ。他人に対する自己主張の弱さ。
それが幼い勇者の不安定な性質だった。
 
 
 村の集会場で大人たちだけで集まる場にローズは父親を迎えに夜道を急いでいた。
程なくしてついた集会場では大人たちは酒に酔い、久しぶりにハメを外していたホスターも例外ではなかった。
 中にはいれば椅子で眠った人やどかされているタルなどでごったがえしている。
大きなタルの向こうにホスターが見え、ローズは顔をほころばせるとタルの間を抜け、すぐそばへとやってきた。
 
「しっかし、あいつずいぶんとまぁ、剣が上手くなったなぁ。」
「あんなひょろっひょろで剣なんか振り回して危なっかしいと思っていたのに、やっぱり勇者様だよなぁ。」
 すっかりでき上がっている会話にローズは足を止めた。
勇者といえばこの村では自分しかいない。ホスターも珍しく、ローズがほとんど…いやはじめて見るかもしれないほど酔いが回りまわりの言葉に笑う。
つまむものを取ってくると言い立ち上がったホスターを見ていた男達はほとんど空のグラスを傾け上機嫌に話す。
「あの時は驚いたなぁ。ほら、勇者だって分かった晩だよ。ただの化け物かと思ったら勇者だってなぁ。化け物といわれて山に捨てられた勇者。なんてことにならなくてよかったぜ。」
「ホスターもシュリーさんも化け物ってずっと呼んでたし、赤ん坊の頃なんて全然満腹にさせてやったことはないんだろ?夜鳴きして何度か怒鳴ったら夜鳴きもなくなったし、赤ん坊独特の構ってほしい泣き声も叱ったらなくなったし…ほんと勇者って言うのは化け物なんだろうな。」
「この前呪文に失敗していた時あったんだけどよ、そのときは本当に魔王を倒す道具の癖に役立たずって思ったな。山に帰れってな。」
「そりゃあいい。役立たずは山に帰れってことか。」
 そこにホスターが戻ると眉を寄せる。
「おいおい…人の息子を…。まぁ確かに人形みたいな子だけど、可愛いところもたくさんあるんだぞ?ん?誰か今ここにいたか?」
 タルの向こうに回ってみるがそこには誰の姿もない。
気のせいかと、ふと時間を知らせるぜんまい仕掛けの時計を見るとそろそろもどるかとふらつきつつも家へと向かった。
寝静まった家に帰ったホスターはそのままの服で自分の寝床へと倒れるように横になり眠る。
ぼんやりと目を向けた先では子供の布団が見え、安心するように眠りに落ちていった。