歪んだ月

 
 
 翌朝目が覚めると若干ふらつく頭を叱咤し、水で顔を洗うと幾分ましになった頭にふとローズがよぎる。
なんだか急に胸騒ぎがし、慌てて寝ている子を見に行くと誰もいない。
ぎくりと鼓動が跳ね上がり、リビングへと駆け込む。
「あら、あなたおはよう。」
「お父さんおはよう。どうしたの?」
 届かない足をぶらつかせ、水を飲む子供と妻の姿を目に入れ一気に脱力した。
思い違いかと椅子に座ると思い出したように頭が痛み、ため息をつく。
 
 突然食器が割れる音がし、ホスターは急いでその音の元へと向かった。
「ごっごめんなさい。ごめんなさい」
 散乱した破片を慌てて拾うローズは何度も謝る。
どういうわけか震えているローズだったが、破片に手を切り、びくりと体を揺らす。
シュリーが急いで傷を確かめるとローズは首を振り、大丈夫だというと再び小さな震える声で謝る。
その姿に二日酔いで頭が痛むホスターは眉を寄せると忌々しげにため息を吐いた。
「もういい。チューベローズ、今日は剣の練習だろう。早く行きなさい。」
 はじかれたように顔を上げたローズは再びうつむくと小さく謝り、剣といくつかの小物が入った袋をつかみ飛び出していく。
「あなたもうすこし言い方と言うものがあるでしょう。」
 ホスターの言葉に震えていたローズに気がついたシュリーは破片をまとめると外へと捨てに行く。
「わかっている…。しかしどうにかならないのか…。あの子はいつだってあんなに弱気で。」
 女々しい、と呟くホスターにシュリーは優しい子なのよという。
「でもへんねぇ…。いつもなら食器を落としたりしないのに…。どこか具合でも悪かったのかしら。」
 不思議そうに呟くシュリーに再び胸騒ぎがしたが、また思い違いだろうということにしホスターは畑へと出かけていった。
 
 
「どうしたローズ。今日は剣に迷いが出ているぞ?」
 剣の師匠クレイに言われローズは思わず剣を取り落とす。
不思議なものを見るようにソーズマンも見ていたが首を降るローズに首をかしげ鍛錬に戻る。
何かあるなら話なさいといわれるローズだが首を振り、うつむく。
 その手は震え、萎縮したように見える体は小さい。
「そんな風では鍛錬にならないだろう。今日はローズはここまでだ。家で休んでなさい。」
 ローズはそういわれ小さく謝ると家へと向かいかけ足を止める。
泉に行き顔を洗うと風に当たるため丘へと上る。ローズはここからの景色が好きだった。
石に座り空を見上げていたローズは普段近寄ってはいけないといわれている先端へは行ったことはない。
 
ただただ悲しかった。
役に立たないといけない。
だから朝から頑張ったのに空回りし、父を怒らせクレイには呆れられた。
 
-役立たずは山に-