どうして自分みたいなのが勇者なのだろう、とうつむき昨晩の言葉を思い出し、少し大きめの上着の裾で顔を拭う。
あふれる涙に膝を抱えると小さな体を更に小さくし、体を震わす。
-捨てられるくらいなら 周りの迷惑になるなら いっそ-
どくりと耳元で鼓動が聞こえ、ローズは顔を上げる。
目に映るのは見覚えのない白い空と白い雪。
-お前の名前はチューベローズだ 自分を化け物なんて二度というんじゃない-
でもみんなぼくのことばけものって呼んでたよ。
お父さんもお母さんも誰もチューベローズだなんて呼んでないよ。
-いっぱい話すとみんなよろこんでくれる-
-ばけものってなに? きえろってどういうこと? ぼくはみんなとちがうの?-
-僕はチューベローズ 役に立たなきゃ一人ぼっちになる-
-よばれたらへんじしなきゃ わらうとおとうさんたちよろこんでくれる ―
-そばにいさせてくれる-
空をふわりとバンダナが飛び、とても寂しくて悲しくて、とても不安で。
とても安らかな…そんな気持ちになり導かれるようにふらりと立ち上がると手に持った剣を見る。
先日魔物を切りすぐに研いでもらったためいつも以上に鋭い剣。
どんな硬いものでも切れる剣。
村の外は怖い。
人の目が、怖い。
すらりと抜いた剣は太陽に輝く。
丘の先端近くは風が吹き、周りの音が消える。
-この化け物!-
-化け な か、は く捨 ればいいのに-
-この飢饉 こ け物 せい -
-汚ら い!早 息の根を止め 戴-
切れ切れに誰のかわからない声を思い出し、みんな自分の死を望んでいたと、そう理解すると同時に目の前の視界が剣を残して歪む。
これはばけものをころすけん。
ほら、歪んだ顔のばけものがうつっている。
みにくいみにくいぎんいろのかみをしたばけものがみてる。
あおくてきいろでかこまれためがみてる。
-ゆきはつめたいけど でもぼくをやさしくだきしめてくれた もどりたい-
-あのやさしいゆきはぼくをこばまなかった はじめていばしょをくれた-
―かえりたい しずかなあのばしょに かえりたい かえりたい―
これで誰の迷惑にもならない、役に立たないから山に捨てられ寂しい思いにはもうならない。
ローズは微笑むと大きな剣を細い腹に突き刺し丘の先端から転がり落ちていった。
―神様、神様 どうか次の勇者は 僕みたいな出来損ないにしないでください―
両手で強く柄を持ち、深く深く突き刺す。
不思議と胸の熱さも消え、体が軽くなる。
全身を打ち付け体を丸めたままローズは剣を抱き込むよう腹に抱え微笑みながら眠りについた。
-はじめからこうすればよかったんだ-
丘の先端でソーズマンは木々で隠れた下を見下ろし顔を青ざめる。
震える足がもつれ、思うように走れないが必死に動かし村へ戻ると家へと駆け込んだ。
「お父さん!!!ローズが…ローズが!!!」
「どうした!?一緒じゃないのか!?」
様子がおかしいからついていってあげなさいと、そういわれていたソーズマンは震える唇を何度も噛み、上手く言葉にならないのに地団駄を踏む。
「ローズが…ローズが…。おっ丘から…おっおか…丘から…けっけ剣で…。」
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