血の気を失った顔のホスターはソーズマンに先導され、雲を踏む感覚で丘の下…森へと向かっていた。
『ローズが丘から自分を刺して落ちたらしい。』
(ローズが丘から落ちた?剣で刺した?何を?自分を?どうして?何で?)
ぐるぐると渦巻く言葉にホスターは目の前に広がる赤い地面に足が止まりかけ、かろうじて動かした。
一足先にプリーストの母セングルーと共に来ていたクレイは、呆然とした表情のホスターに視線を返すと必死になにかを引き剥がそうとセングルーと共に、倒れた子供にかがみこむ。
「子供の力だっていうのに…はがれやしない…。」
硬く握り締めた剣から手をはがそうとするが小さな手と抱え込むように丸めた体で思うように出来ない。
鍔の部分まで突き刺さった剣は背中から飛び出し全体を赤黒く染め上げていた。
笑った口からは血が流れ、傷口からも血が広がる。
かろうじて息があるのは印のおかげ。
それも長くはもたない。
だが剣を抜かなければ治療も出来ない。
ホスターも手伝い、ようやく指がはがれるとクレイは慎重に剣を引き抜き、セングルーがすぐさま止血薬を塗り治癒呪文を唱える。
手を離されたローズは剣を握ろうとし、ないことに気がつくと目から涙を流す。
震える唇が動き、かすれた声で呟く。
“できそこないでごめんなさい 死ねなくてごめんなさい 役に立たなくてごめんなさい だから死なせて 化け物だから 僕は勇者だから 化け物を倒さなきゃ”
抑えられる腕に抗うがやはり子供の力。
ホスターに肩を押さえつけられ弱々しく動くのみであった。
不意に血を吐きながら子供は大きな声で笑い出した。
けたけたと楽しそうに笑い、その異様さに少し遠くにいたソーズマンを含めた4人の背筋が凍りつく。
ぼんやりと開いた瞳から思わず目を背け、セングルーは手当てをするとだんだんと弱くなる笑い声に涙を流した。
ただのガラス球のように何も映さない瞳をホスターは見つめ、いまだ笑ったままの子供を抱きしめる。
程なくして笑い声が消えると子供の体から力が抜け、かすかな息をしながら気を失っていた。
気絶した子供を抱きかかえ、村へと戻ったホスターたちはセングルーとシュリーが看病しその間に他の大人たちが集まる。
遅れて入ってきたホスターに視線が向くと眠ったことを告げた。
「ずっとうなされながら自分を化け物だって言い続けていた。あの子が小さい頃そう呼ばれていたのを知っているかのような感じだったんだが…。」
「まさか。今じゃあ、あの子の前ではそんなこと一言も言ってないぞ。なんだってそんなこと…。」
知るはずがない、と口々に言う中ふと何かを思い出したように声を上げるものがいた。
「昨日…あんまりはっきり覚えているわけじゃないんだが酒場にローズが来ていたと思うんだが…。ホスターさんを迎えに来たんじゃないのかな?あぁ、そうだ思い出した。うん。確かにホスターさんを見て嬉しそうな顔で駆け寄ってたのを。そのあとすぐにホスターさんも帰ったからてっきり一緒に帰ったのかと…。」
ホスターの呆然とした顔に違うのかと言うと他の男達が青ざめる。
「聞いていたんだ…。ホスターが席をたっているときに俺たちがしていた会話を…。」
どういうことだというホスターに男達はポツリポツリと覚えていたことを話す。
その話を聞いているうちにホスターは朝のローズの様子を思い出し確信する。
クレイも同様にあの剣の迷いはと思い出していた。
「チューベローズは…あのときのことをまるで覚えていないんだ…。思い出させたくないからきいてもいないが…。」
村に入ってからうなされ始めた子はしきりに寒いと震えていたローズを思い出し、心に負わしてしまった傷を想う。
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