「どうしたら…どうしたらこの子の傷を癒せるかしら…。」
「それはもう少し時間をかけないとだめよシュリー。どれほど愛しているかを…うんとうんと愛して。大切に大切にそれでいて息子として子供としてちゃんと見てあげるのよ。」
すぐには無理よというセングルーにシュリーはうつむく。
「少し酷な事を言うようだが愛され方を知らずに愛をわからないこの子は…間違いなく人攫い共の標的にされるだろう。あいつらはハイエナのような嗅覚でだまされやすい子を見つけ出す。気をつけたほうがいい。」
静かに眠るローズを見ていたメディシンはぽつりとそう呟いた。
顔にかかった銀色の髪を払い、ほてった顔をなで、その暖かさに触れるとそっと髪をなでた。
彼が今まで見てきた子供の中でも特に小さく、か細いこの子供は見たことがないほど重い宿命を背負っている。
「だがこの子は男の子だぞ…。いくらなんでも考えすぎでは…。」
「あいつらにはそんなことはどうでもいい。特にローズはあまり見ない銀色の髪に綺麗な目を持っている。それに今後大きくなれば変わるかもしれないが、同い年の子にしては体が小さい上に綺麗な顔をしている。町で知り合った元奴隷商人から聞いた話だ。無垢な子供ほど…見た目などの付加価値があればあるほど高額で取引され、観賞用として目をつけるものがいると。」
ホスターの言葉にメディシンは首を振る。
彼は十数年前にこの村に来た別の国出身だ。
人攫いと無縁な村とは違いいろいろなものを見てきたという。
たくさんの小さな子供や若い人が繋がれ、売買されていった様子を。
「そんな…観賞用だなんて…。でも強くなればすぐ逃げ出せるわよね。だって見られているだけでしょ?」
「シュリーさん。観賞用の奴隷というのはあくまで一般的な呼び方だ。本来の目的は薬で思考を奪い、自由を奪い、人であることを忘れさせ、そして自己の満足のためだけに使う…性奴隷のことだ。」
ちょうど様子を見に来たクレイはやや青ざめたシュリーの言葉を否定し、真実を伝える。
彼もまた武者修行のたびに数年間さまざまな国を旅してきた。
「そんな…。チューベローズにそんな…。」
「十分気をつけたほうがいい。やつらには神の紋章なんてしらないのだからな。」
現にある村人がその昔町に来た人買いに紋も伝えたが、見たことすらないと笑っていた。
そして偶然聞いてしまったクレイは以前、村人に言っていた言い値も聞いてしまった。
観賞用奴隷としての値段を。
「でも…」
「ローズは疑わない。それに人に決して手を上げない。勇者の紋というせいでもあるかもしれないが、この子は元からやさしい子なんだ。やつらはどんな手でも使ってくるぞ。」
「だから今からでもちゃんと愛され方を教えるために心から愛してあげないといけない。少しでも多くの人ということについて教えて偽りの愛情と本当の愛情の区別が自分でわかるようにしないと。」
信じやすい子なんだから気をつけないとな、と本当に赤ん坊にもどってしまったかのような寝顔で眠るローズの髪をなでる。
紋のせいか、同い年のこと比べれば圧倒的に物事を見る能力と判断力、そして自分を抑える力が強い。
教えればスポンジのように吸収し、自分の力にする。
でもけっして大人の真似をするようなそんなそぶりは見せない。
いつもすこし離れたところからおずおずと大人たちを見る。
寄って来たかと思えばすぐに離れ、近づこうとはしない。
手を差し伸べても迷った挙句隠れ、じれったさに強引によれば震えながらも逃げずじっと怯えた目で見つめる。
「そう…ね。そうよ。そんなやつらの言葉にだまされないよう、上辺だけの言葉とそうじゃない言葉の違いが判るよう、しっかりしなきゃ。」
「ひとまず、回復するまでなんと言うおうと安静ね。うんと愛情を注いであげてね。」
それじゃあ、とメディシン夫妻は子供とその両親を残し家へ帰っていく。
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