翌朝目覚めたローズはまだぼんやりとする中、誰かのぬくもりに包まれていることに気がつき、首をめぐらす。
体は包帯やなにやらで固定されているのか動かない。
「あぁ、おはよう。まだ体痛むか?」
ホスターの顔を間近で見つけたローズは首を振るう。
起き上がろうとしたのを抑えられ、一瞬怯えた表情をとった。
「傷が治るまでゆっくり休んでいていいんだよ。ほら、傷が開いちゃうだろ。」
「でもおとーさん、僕ゆーしゃだからねてたら…やくにたたなくて。」
下がっていない熱に舌ったらずな口調になっているローズはそう朦朧とするなか呟く。
「んなことないよ。私たちにとって、お前がいることでこうして嬉しいんだから。無理しなくていいんだよ。」
「さびしいしない?」
髪をなで、熱った頬に口付けると、ローズは蚊のなくような小さな小さな声で不安そうに呟いた。
その言葉にどれだけのことをしてしまったのか、改めて思い知ったホスターは首を振り、傷に障りないよう抱きしめた。
「あぁ、もうさびしいしないよ。絶対させないよ。ごめんな…本当に遅くなって。」
不安げな顔のローズを見つめ、目を見て話す。
するとローズはよかったと微笑み、こっくりこっくりとまどろむ。
寝やすいよう抱きしめる手を緩め、抱えるようにすると安心した顔で眠る。
「ゆっくりお眠り。シュリー…ずっと抱いていて思うんだが…なんでこんなにこの子は軽いんだ…。」
「本当に…でもチューベローズはすぐお腹がいっぱいになってしまうから…。」
あまりの体重の軽さにホスターはその場に留まらせるよう抱きかかえた。
その様子にシュリーも痛ましげな目で息子の身体を見る。
一歳年上のソーズマンと比べても明らかに小さい。
同い年のこと比べても女の子のような細さ。
いくらご飯を食べさせようとしても無理に食べさせれば全て吐き出してしまうほどの食の細さ。
おまけに体調を崩すことが多く、そのときは本当に食べない。
発育が遅れているといわれているが、これだけはどうしようもない。
「唯一木苺だけたくさん食べてくれるけど…それじゃあ体重増えないから…。」
「どちらかと言うと草食だからなぁ…。」
しっかりと匂いを消した肉なら食べられるが、それ以外はあまり食べないことにホスターはどうしたら良いのかとため息をついた。
様子を見に来たメディシンにどうにか食べさせる方法はないのかと二人は相談を持ちかけた。
「そうねぇ…。チューベローズの場合本当に食が細いから…。あ、そうだわ!オレンジの香りよ!」
「オレンジ?どうしてなんだ?」
困ったように唸るメディシンの隣で、セングルーが何かを思い出したように手を叩くとあれがあったわと言い出す。
首をかしげる夫婦に持っていた薬草の箱を探ると何かを取り出した。
「これこれ。オレンジの香りは食欲を増やす働きがあるのよ。これを食事前に嗅がせてあげたり、料理の匂い付けに使ってあげるの。ほかにも薬草で食欲を増やすものがあったはずだから…今度探してみるわね。」
「薬草にもいろんなものがあるのねぇ…。少し具合がよくなったら試してみるわ。」
偶然持っていたという小さな小瓶には、オレンジの液体が満たされ、そこからさわやかな甘酸っぱい香りがわずかに香ってくる。
「もしこれでだめなら…本当はこんなことしちゃいけないんだろうけど…。チューベローズのお腹がすいたときにこの匂いを嗅がせてあげるの。それを何度も何度も繰り返すとこの匂いを嗅いだだけでお腹がすくようになるわ。」
でも、と言いよどむセングルーに本当はそんなことはやってはいけない、とメディシンが言葉を続ける。
ホスターはいつになく真剣な表情で当たり前だ!と声を荒げた。
「その方法は…野良の犬や狼を手懐ける方法じゃないか!あの子はそれを嫌って…。」
「わかってるわ。でも…それぐらいしか思いつかないのよ…。うまくいけばご飯のとき以外にもお腹がすいて食べてくれるかもしれないじゃない。」
私だってそんなことしたくはない、というセングルーは眠る子供を見た。
下手をすれば娘のプリーストよりも小さいかもしれない少年を。
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