ぱっと眼を開いた人物は辺りを見回し、自室であることと眠ってから数時間もたっていないことに起き上がり、深々と溜息を吐いた。
ずきずきと頭が痛むのは崖から落ちた瞬間に死ななかったことと、あのときは本気で何が起きたのか覚えていなかったという自分の馬鹿さ。
食が細かったのも、体重が異様に軽かったのも、幼い時に勇者の紋による特性である起死回生を短期間に2度に渡って使用してしまったことで体が天族に近づいてしまった影響。
天族は肉類をほとんど食べず、地上の物もあまり口にはしない。
3度目の起死回生を使用した後、あと数年で完全に天族になると言われた瞬間、魔王を倒そうが倒せまいが行きつく運命がすでに定めされていたことを知ったあの絶望。
いらいらと水差しをつかんで一口飲むと床にたたきつける。
最上階から聞こえた音に屋敷の猫又達はびくりと体を震わせ、家政婦長シャムリンは荒れてるニャ、と小さくため息をこぼした。
割れた器の破片に目を向けていたローズだが、引き出しをあけると小箱を取り出し、ふたを開ける。
だが、そこには葉の破片が入っているだけで目的の葉そのものがない。
舌打ちをするローズだったが、聞こえた念話に服を着替えて移動魔法で向かった。
「ローズ、休んでいるところ悪いが…また人間たちで徒党を組んでいたらしい。2軍から情報が上がっているから…ちょっと書いといてくれ。ここ使っていいから。」
「あぁ…確か副将のヤタガラスがそう言っていましたね。わかりましたが…どこに行く気ですか。」
魔王ロードクロサイトの執務室にはいるなりそう言われたローズはため息を呑みこみ、渡された巻物を広げる。
じゃあ、と言って立ち上がる魔王を見つめると、魔王はちょっと町までと言って闇魔法で消えてしまう。
残されたローズは先ほどまでロードクロサイトが座っていた席に着くと先ほどまでの不機嫌さはどこへやら、弟子からの報告書に目を通し、インク壺を引き出しから取り出す。
自身の書いた巻物を丸めると大きく伸びをし、うとうととしながらそう言えば悪夢のせいで寝てないと思いつつその場に突っ伏す。
魔王がいた魔力の残滓と、魔物になったことでわかるようになった、巻物からわずかに残る部下や弟子、そして魔王の残り香。
それらに包まれながら静かに眠る。
ぐっすりと眠る首筋に鋭い痛みが走り、目を覚ましかけてそのまま気絶するローズだが、魔王の気配に包まれ、悪夢はもう見なかった。
-fin
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