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 天界と魔界の人間界をめぐる戦いはいつしか1500年もの歳月が流れていた。
 翼を持つもの通しの戦いは天族と魔族の600歳の寿命を若くして散らすこととなった。
 龍暦―太古の昔、龍を崇めていたことにあやかった年号−4959年12月、人間界にして西暦1782年。
 魔界では吹雪が吹き荒れるころ、魔族らは劣勢に立たされた。
 彼らは血族に伝わる呪文しか唱えられず、血を守るために一族から強いものを戦場に立たせずにいたためだ。
 「血を絶やすな。家の呪文を後世に。」
 
 だが天界はあらゆる呪文…それも治癒呪文が唱えられた。
 よく1500年もの間魔界は戦争を続けられたものだが、それにはひとつの鍵がある。
 この世において最も禁忌とされる生命を作りだすということ。
 
 魔生物も半数を失い、なおも抵抗と続ける魔族は切り札を出した。
 暗色の髪を持つ魔族から連れ出されたのは薄いブロンドの髪の女性。
 「貴様らの姫を殺されたくなければ去れ!」
 一時開いた2つの種族の間に立たされた女性…天王の姫マリアだ。
 人間界にいるはずの姫の姿に動揺が走る。じりじりと下がる天族だったが、魔族から魔力を感じると同時に一人の少年が駆け寄るのが見えた。
 反射的に黒い髪をした少年に向かい呪文が放たれる。
 マリアは少年を狙う双方からの呪文に気がつくと呪文を唱えることもせず、身を挺して少年を守った。
 倒れるマリアに天族らは誰が撃ったのだと言い、少年からあふれる魔力に気がつくのが遅れた。
 
 「よくも…母上を…母上を…。」
 辺りは一瞬にして赤い光に包まれ音がかき消される。
 光に目がくらんだ者達が目を開くとそこには、少年とマリアを中心とした巨大なクレーターができ、瓦礫の中からうめき声が聞こえる。
 すぐ足元にクレーターが出来たものは腰を抜かし、目の前の惨状に言葉を失う。
 だが、天族だけでなく、むしろ魔族側の被害が大きいように見えた。
 魔王がいた場所共々綺麗に陥没していたからだ。
 我に返ったものが慌てて穴へと降りると救出作業が行われた。
 
 
 中央にいる少年は赤い瞳の焦点を合わせると真っ青な顔で辺りを見回した。
 まるで自分でも何が起きたのか分からないように少年は惨状に絶叫した。
 「違う…こんな…違う…。ぁああああああ!!!」
 少年の体を青い光が包み込み、黒い翼がその背に広がる。次第に翼は白い光に包まれ、純白といっても過言でない白い翼となった。
 警戒し、天族は呪文を一斉に放つ。だがそれは少年に届くことはなく、青白い光に阻まれ一切の攻撃を受け付けない。
 今度は少年の周りに風が吹き、青白い光をあたりに降り注いだ。
 その途端、うめき声を上げていたはずの者達の声が途絶え、自力で瓦礫をどかし出てきた。
 彼らの傷はほとんどが軽傷にまで回復していたのだ。
 
 光が点滅し、マリアを抱きかかえたまま少年はその場に倒れ意識を失う。
 天界にあるはずのない黒い翼を背にして。
 
 
 
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