ハロウィン祭り

 
 

 
 
 畑仕事をしていたローズは突然の申し出に首をかしげた。
「ハロウィンの収穫祭?町でなの?」
「そう!町でね、皆仮装してお祭りをやるのよ!」
「小さい頃は村から出ちゃ駄目って言われてたけど、皆もう大人だから大丈夫。」
「だからロー君一緒に行こうよ。」
 手を止め、やってきた近所の少女達にさらに首をかしげた。
向こうの方では父ホスターが息子を少し気にしながら作業し、
手伝いに来ていたソーズマンも手を止めがちに様子を伺っていた。
 
「来月の終わりだよね?特に予定無いからいいよ。」
 風になびく銀色の髪を押さえ、頷くローズに少女達は嬉しそうに喜び合いまたねと走り去っていった。
「来月の予定って…早すぎるだろう…。」
 ため息をつくソーズマンは作業を再開させたローズを見守る。
眼が合った本人は首をかしげ、苦笑いをする父とソーズマンを見比べた。
「どうかしたの?」
「一ヶ月先の予定なんていつ変わるかわかんねぇんだし、直前まで返事保留しとけよ。」
 大丈夫なのか?と小突くソーズマンにまぁまぁとホスター。
 
「仮装しなきゃだな。どうする?チューベローズ。何か着たいものあるか?」
「う〜〜ん…仮装…。そうだなぁ。何でもいいけど…。母さんに頼んでみようかな?」
 今日の作業は終わりだ、というホスターは手ぬぐいで息子の顔についた泥を払いながらどうする?という。
基本的に毎年の仮装を母シュリーに頼んでいるため、何にしようというローズは兄と慕っているソーズマンを仰ぎ見る。
「相変わらずちっこいから妖精とかでいいんじゃね?」
「妖精はおととしやったよ?それに…エルフとか…あ、童話のもやったことある。マッチ売りとか。」
 ソーズマンとは完全に頭ひとつ分離れてしまった身長差に見下げると、
かえってきた返答に思わず言葉を失う。
完全に遊ばれているのを本人は気がついていないのか、と明後日のほうを見る父親をみた。
「あのなぁ。それは女の子がする衣装。外見的に問題なくても少しは気にしろよな。」
「だって男の子の服だって母さんが…。ねぇ?父さん?」
 家までの道すがらため息をつくと驚く幼馴染に心配すぎる、とがっくりとうな垂れる。
「まぁチューベローズも来年成人の宴があるからたぶんもう着ないと思うぞ…。」
「本当に女の子の服だったの!?ちゃんと母さんに言わなきゃ…。
 そういうのはユーにって。」
 本当に?とため息をつくローズは家の前でソーズマンと別れ、
ユーチャリスとお茶を飲む母に今日のことを言う。
「あら。チューベローズももうお年頃ね。それじゃあ…そうね…。
 せっかく女の子達と行くんだからかっこいいのがいいわね。」
 女の子の服はいやだ、というより前にそういわれ、ローズとホスターはほっと息を吐いた。
「そうねぇ。小人…は小さい頃やったし可愛い部類よね。
 それじゃあ…吸血鬼とか無難に蝙蝠羽のとか。」
 何にしようかしら?、と微笑むと一緒にいるユーチャリスと顔を見合わせくすくすと笑いあう。
 
「お兄ちゃんはきれーな髪だからね!ユーも町にいくー!」
「ユーチャリスはまだ小さいからおにいちゃんと一緒でもお留守番しましょうね。」
 だめよ〜、と微笑むシュリーにユーチャリスはやだ、
というが座る兄に走り寄り膝の上に乗る。
 
 
「そろそろ傷が見えない程度に髪切るか?大分長くなっただろう。」
「やっぱり長いかなぁ。うんと短くしてスカーフでも巻いて傷隠せば…。」
「だめ!お兄ちゃんの髪の毛キレーなの!絶対切っちゃだめ!
 長い方がお兄ちゃんいいの!」
 首裏についた背中から続く傷を隠すために伸ばした髪だが、
今はもう腰を覆うほどの長さだ。
 座ると少し床に広がり、キラキラと光を反射する。
細い髪が風で顔にかからないようにとバンダナを巻いてはいるが、
結ぶとすぐに癖がついてしまうためいつも伸ばしたまま。
 その髪をなでるホスターはユーチャリスに手を叩かれ、駄目なの!と怒られる。
ユーチャリスはそのままローズの首にぶら下がるようにしがみついた。
困ったように笑うローズは妹を優しく抱きとめ、髪を撫で付けた。
「こら、ユーいい子だから怒らないの。ユー、僕の髪好きだもんね。ごめんごめん。
 でも、床に付いちゃってる分だけでも切っていいかな?
 色薄いからよくユーとかお父さんとか、お母さんに踏まれて立ち上がった時すっごく痛いんだ。いい?」
 同じ高さに目を合わせ、いいかな?と問うローズにユーチャリスは少し悩むが、
座った兄の髪を踏んづけてしまい、立ち上がろうとした兄が悶絶する姿を思い出してしぶしぶ頷いた。
「ユーは本当にいい子だね。それじゃあ少しだけ切るね。いっ…」
「よし、じゃあチューベローズ。縁側に後ろ向きに座ってくれ。
 床より少し上で切るからな。」
 立ち上がるローズは頭を抑えるようにして後ろを振り向くと、
罰が悪そうな顔をしたホスターが脚をどけ、縁側に座るよう促した。