人間達のいる町、モスペガズにやってきたキスケは辺りを見回し、
普段見えていた風景とはまったく違うことに目を丸くした。
ローズの身長が低いおかげで他の人と同じような視線だが、それでもいつもとはまるで違う。
「ん。ここがいいかな?」
一軒のお店に入ると、出てきた織り鶴の女性はローズの顔に首をかしげ、あぁと笑った。
「ジキタリス様こんにちは。あらあら。獣人かしら?」
「うん。この子、急に姿が変わっちゃたらしくて……何着かいいかな?」
降ろされ、不安げにシーツを巻きつけるサフィに織り鶴は優しく手を差し伸べ、
すぐに服を見繕ってきた。
初めて着る服に戸惑うキスケだが、かわいらしい水色のワンピースを着た自分を鏡で見つめ、
かぁと顔を赤らめる。
おまけに麦藁帽子をかぶせてもらい、青い靴を履くとふつーの少女にしか見えない。
「可愛いわよ。ばっちり!」
自分では気がつかなかったが、小さな尻尾があったらしく、
下着やワンピースにもうけられている尻尾用の穴から小さく顔をのぞかせていた。
「ジキタリス様、お待たせしました。他のお洋服はどうします?」
試着室からでてきたサフィにローズは微笑み、自分の屋敷にと言う。
初めての洋服にワクワクするキスケは帽子が飛ばないよう押さえ、鏡の前で回転してみた。
「よかったよかった。それじゃあ…どこかでご飯食べようか。
たしか…穀物類を中心にしたレストランがあったはずだから…そこでね。」
代金を払うローズにキスケはうれしさと恥かしさで顔を赤らめ、
帽子を深くかぶりこんだ。
笑うローズが手を差し出し、キスケは手を取った。
「じゃあ行こうかサフィ。歩くの辛くなったら教えてね。」
恐る恐る歩くサフィにローズは微笑ましげに見つめ、
歩調を合わせながら目的のレストランへと向かった。
夕暮れが近づき、屋敷に戻るキスケは隣で歩くローズを見上げ、
帽子に手を置くとうれしさで笑った。
どうやら自分はローズの身長を抜くことなく、こうして見上げられる。
ユーチャリスを羨ましく思っていた分うれしい。
「さて…そろそろキスケが怒り出すころかな?」
ローズの屋敷へと向かっていたローズは足を止め、どうしようかと振り返る。
だが、そこには既に少女の姿は無く、やれやれ、とため息を吐いた。
なんとか獣人化が解ける前に自室へと駆け込んだキスケは
付き猫に服を片付けてもらい、まったく使っていなかったクローゼットへと一緒に入っていった。
「あれ!?キスケ様、お洋服持っていましたっけ?」
「ちゅう!?」
ビックリして付き猫と共に固まるキスケは慌てて何があるのかを確認する。
何度見てもおいてある洋服や靴などはあの時買ってもらったもの…。
どうしてここにあるんだろうかと思わず付き猫と顔を見合わせ、首を傾げた。
「全く…。キスケもまだまだだね。」
そういって微笑んだ四天王長は屋根に寝転び、空を見上げる。
どうやらそろそろ言葉が交わせる日が来るのだろとその日を思い描いた。
おわり
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