キスケという名前自体、チューベローズがオスだと言われたのを信じているがため。
女の子の姿をした自分に気がつくはずもない、
と少し悲しげにため息を吐くとそれを不安でため息をついたと思ったチューベローズが微笑みかける。
「大丈夫。一時的な獣人化なら一晩経てば戻るだろうから。
どうする?キスケのところ戻る?えぇっと…なんて呼べばいいだろう…。
綺麗な青白い髪をしているから…サフィで大丈夫かな?」
ハムスターの毛色から取ったけど大丈夫?
と首をかしげるチューベローズにキスケはコクコクと頷いた。
屋敷には戻らないと身振りで示すと夜までどうしよう、と悩む。
「そりゃあいきなり獣人化してたらビックリだもんね…。
キスケには後で言っとくから夕方ぐらいまで僕の屋敷にいてもいいよ。」
その前に服どうにかしなきゃ、と苦笑するローズはゆっくりとサフィから離れるとしっかりと手を握ってあげた。
慌てたように手にすがるキスケは不安げにチューベローズを見上げ、小さく唸る。
「そっか…4足歩行から2足歩行だから…ちょっとバランス取れないかな?ん〜〜…
ちょっと待っててもらってもいい?すぐ戻るから。」
どうしよう、と悩むローズはサフィにそういうと頷いた小さな頭を撫で、
一瞬の瞬きと共に姿を消す。
魔法を使った移動方法。風・水・炎はもちろん存在するが、
あまり早くはなく転移先にその物質がないと移動できない。
闇・光はかなり特殊で闇なら空間をゆがめ、強制的に影を作り出し其処に転移することも出来、
見える範囲内の影ならどんな大きさの影であっても瞬時に移動できる。
光も薄明かりさえあればその光が見える範囲内移動でき、
どんなに分厚い壁の向こうでもわずかな隙間さえあれば入り込むことが出来る。
遠くに移動する際は光に乗ったまま、転移先の最低条件まで瞬時に移動することが可能で、
かつての銀月の勇者は戦闘にも活用していた。
恐らくはここの庭から見える最上階のバルコニー…
自室に移動し町に行くため準備をしているのだろう。
程なくして現れたのは髪を布で覆い隠した、
どこか人間の国で見たことのあるような服装のチューベローズ。
特徴的な髪は隠れているものの、もうひとつの特徴である黄色で縁取られた青い目はキスケに優しく微笑みかけている。
背を向けてかがむ姿にキスケはしがみつくと懐かしい感覚についいつものようによじ登った。
「ん?肩車の方がいい?それじゃあしっかり掴まっていてね。」
肩に乗るつもりが人の大きさになったおかげで、
昔見たことのあるような座り方になってしまった。
落ちないようしっかりと目の前の布の塊にしがみつき、顔を寄せる。
ラベンダーの香りと甘い金木犀の香り。それとコスモスの香りと椿の香り。
何の花かわからないけれども、どの花でもあるような元主人の香りにほっと息を吐いた。
今思えばあの命の唄を謳い、常に花に囲まれているのだし、
何より“あれ”の正当な持ち主でもあるのだ。
だからこそこんな香りがするんだと思えてくる。
「それじゃあいくよ?」
足を抑え、見えないながらにも見上げるローズはぎゅっと握り返されたフードに微笑み、屋敷を後にした。
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