鍛錬所に金属音が響き、2人の影が重なっては離れる。
鋭い連続音に弾かれ、短剣を落としたキルは拾う前に蹴りを入れ、
師匠の剣を避けながら短剣を拾い師匠の剣を受け止める。
砂時計が切れ、鈴が鳴ると2人は手を止め剣を収めた。
「ずいぶん強くなったねぇ。」
「お陰で。師匠を超すのももう少しかもしれないですね。」
少し息の荒いローズは同じく息を乱すキルの言葉に生意気言って、と笑いながら小突く。
大浴場で汗を流す2人はゆっくりと体を伸ばしリラックスしていた。
「それにしても…あっという間に背伸びたね…。前は頭撫でるの楽だったのに。」
「あぁ、身長でしたらもうすぐ越せますね。角を入れればもう越してますか。」
手を伸ばし、頭を撫でるジキタリスにキルは近くなった身長に笑い、師匠と見比べる。
なにをっ!というジキタリスがお湯をかけ、キルは笑いながらかけ返す。
「素のキルとそうじゃないキルとの差が減ってきたね。いい顔してるよ。」
「師匠も変態行為が減ってきましたね。
もっと早くにまともになってくれるとよかったけど。」
最初のころは大変だった、と思い出すローズにキルは意地悪気に口元を釣り上げ、
魔王の部屋に仕掛けた水晶が減ったことをいう。
「へっ変態行為じゃない!ただ魔王様が今どうしてるのかなーとか、
こう…いつでも見たかったからで…。」
かぁと顔を赤く染めるローズだが、ごにょごにょと口ごもり言葉になっていない。
最近理由を知ったキルは、恨めしげに見る師匠の頭を撫で返し、
弟子になった時を思い出す。
まだしばらくは師匠を超えたくないな、と考えるキルは
まだぶつぶつ言う師匠と自分の身長を考え、これだけは超えさせてもらいます、
と微笑んだ。
「何笑ってんのさ!」
「なんでもないですよ。
さてと…師匠、魔王様の買い物に出かけられるんじゃなかったですっけ?」
怒るローズにこの後の予定を言えば深々と溜息を吐く。
「なんか部屋に入れる絵が欲しいとか何とかで…。
あ、そうだ。アルマが今夜晩酌しないかって。」
「祖父が?まったく…僕に直接言ってくれればいいのに。」
顔を見合わせお互い大変だ、と笑い合うとそれぞれの用事を済ませるべく
大浴場を後にした。
―終―
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