砂嵐の日…サンドストームデイ。
それは10年に一度ほどの周期で訪れる、
魔王城がもっとも緊迫する恒例行事とも言える日の事である。
ようやく夜が明けるという時間、薄暗い部屋で4人の魔界人が丸いテーブルを囲み座っていた。
「先日、連絡が入った。“例の2人”が5日後に魔王城に到達するらしい。」
四天王長、ローズの言葉に他の四天王は顔を引き締める。
幻術師フローラにいたってはいささかげんなりした表情で短くため息を吐く。
「“例の2人”とはあの…。まだ私は会った事がないため判断が出来ません。
ジキタリス様、ご指示をお願いいたします。」
策士キルは数年前に四天王になったばかりで“例の2人”には会った事がなく、指示を仰ぐ。
「それじゃあ2軍は魔王城の備品などの点検及び危険物の撤去。
それと魔界の道を監視。念のため人間界には数人だけ配備。
三軍は周囲に危険物がないかを確認。四軍は例年通りに。
一軍も例年通り配備する。あとは各自自己判断で動くように。」
「了解。キスケ、穴がニャいかニョチェックたニョむわ。
ガルーダにははニャしを通しておくから好きに使っていいニャ。」
今回の対処には現在3軍の四天王についたばかりのキスケに代わって、以前も経験があるシャムリンが臨時に指揮をとっている。
現在は他の命令で動いているガルーダをキスケの手元に戻す、というシャムリンに
キスケは頷くと本来のハムスターの姿になり早速行動に行うべく出て行った。
「尚、“例の2人”に対しては前々から言っているように決して、
決して注意を怠らないように。では…散」
ローズが手を上げると部屋にいた四天王は消え、慌しい空気が魔王城を包み込んだ。
厳戒態勢のまま各々の仕事を進める魔王軍はまだ魔王城を走りまわる。
「大丈夫でしょうか…。」
「大丈夫であってほしいところだね。一応念話のほうは気にかけていたほうがいい。
何せ前回は2日間前倒しになったんだ。今回もありえないことじゃない。」
指示を出すキルとローズは小さくため息を漏らす。
【キル様!!!】
突然聞こえた念話にキルがいち早く反応し、ローズはまさかと目を見張る。
【こちら魔界の南南西ポイントA!“例の2人”を確認しました!!
まっすぐこちらへ向かっております!!】
【間違いなく“例の2人”ですね!?まだ後一日半あるというのに…。分かりました。
そちらはそのまま接触は避け、周囲の者と共に逐一情報を送るようお願いします。】
念話を送るキルはローズの目を見ると頷き、ローズは舌打ちをすると踵を返す。
張り詰めた空気が一層するどくなり、うんざりした顔の魔王ロードクロサイトも構える。
【こちら南門ポイントC。間もなく魔王城から確認できる距離に到達します!!】
その念話の通り南側に面した門の向こうの坂を上る、
2人の魔界人の姿が確認できるようになる。
「やっぱり情報よりも早くに…。」
「ジキタリス様!まだ準備が終わっておりません!このままでは…。」
副将の渦ドラゴン、セイはどうしたらといつになく厳しい表情の長を見る。
やがて首を振ったローズは仕方ないという。
「出来る限り早く済ませるようにし、陰でやるしかない。
もう目の色が見えるほどの距離だ。無理をすることはない。」
“例の2人”はすでに濃い藍色の髪と鮮やかな翠の髪が見えるほど近く、
赤い瞳と黄色い瞳が識別できるほどの距離しかない。
分かりましたと、下がる彼女を見送ったローズは再び目を“例の2人”に戻す。
2人何かを話していた様子が門に立っているローズに気がついたのか、
会話をやめ翠の髪をした女性が駆け出す。
周囲が一斉に緊迫した空気となり、ローズもまた身構える。
そして…。
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