「やだぁ〜!ローズ君じゃない!わざわざ迎えに来てくれたの?ちょ〜〜嬉しいわ!」
「お久しぶりです。ローキ夫人。また、ローキ様。お変わりないようで。」
飛びついてきた女性をやんわりと流すローズはローキ夫妻にお辞儀をし出迎える。
微笑みながら挨拶をするとローキ夫人…エメラルダは可愛いと飛びつく。
「もう本当に人間なんかやめて正解よ〜。もうほんと、可愛いー!
インキュバスでもあるんでしょ?今夜食事でもどう?」
「申し訳ございません。ローキ夫人。
魔王様の母君であるお方に私のようなものは似合いません。
お気持ちだけ受け取らせてください。」
自分より背の低いローズの頭を撫でると顔を覗き込み、やや上目遣いになる。
それを断るローズだが、可愛いといいつつ飛びつかれどうしたものかとため息を飲み込む。
黒かとも見える濃い藍色の髪をした男性…クラトカが、
無言のままローズの目の前に進み出た。
ロードクロサイトとは違い、顔に入った大きな皺と、
鋭い目つきで後ろに流した髪といい誰もが吸血鬼だと一目で分かるクラトカは、
息子よりも高い位置からローズを見下ろす。
長い牙が閉じた口からも若干見えるほどの顔は、
夕暮れの逆光も加わり夜中には絶対暗がりであいたくはない。
「こっこんにちは…お変わりないようで…。」
「あぁ、久しぶりだな。チューベローズ。」
自身が背を低いことを差し引いても背の高く、
痩せてはいるが威圧感漂うクラトカにさすがに怖気づくローズだが、
降って来る低音に心なしか苦笑いとなる。
初めてあった際、味見ということで突然無言のまま血を吸われ、
どうやら息子と同じ味覚らしく、
エメラルダと同時に吸われ昏倒した記憶が今でも薄れない。
インキュバスとしての異性に及ぼす媚薬作用は、
まぁ夫婦で来ていた為か面倒ごとには巻き込まれてはいない。
昏倒して翌日の昼まで治癒の間にいたのだからフローラから聞いた話ではあるが。
「敬語なんてやめちゃいなさいよ。もう、そんな子にはお仕置き!
あら!クゥーちゃん元気ー?」
「400歳代にもなって何度も言うがその呼び方はやめてくれ。親父も親父だ。
こんな2倍近い年の離れたやかましいのをどっか放り出してくれればいいものを…。」
2人同時に噛まれ、崩れるローズを背後から抱えると、
ロードクロサイトはうんざりとした様子で呟く。
一応覚悟していたらしいが2人に吸われ目を回したローズから、
少し血を吸うと傷をなめて防ぐ。
血を吸った後でないと止血作用が発動できないためだが、
本来は吸った人がやらなくてはいけないことだ。
「うっさい。私とクラトカはふか〜〜くふか〜〜〜く結ばれているんだから。
たかだか400歳になったひよこちゃんには言われたくないわ。
クラトカ、愛しているわw」
「エメラルダ、私もお前以上に…いや、貴女以外私の目には映らないほど愛している。」
見つめ合う2人。見張っていた魔界人のものは脇を向くと砂を吐き、
まだ到着して10分と立たないうちに疲労感を覚え、げんなりとする。
このまま話していても邪魔だと、ロードクロサイトは
貧血を起こしているローズを横抱きにすると2人に中にはいるよう声をかけた。
頭に血が行き届き青白くなっていた顔が若干よくなるが、
当の本人はそのまま気絶しているため反応はない。
【ジキタリス様大丈夫なのでしょうか?】
【そうね…。一応貧血のための薬草を用意させていたから、
中にはいればすぐに飲ませられるわ。】
城の扉前で待っていたキルは、
向かってくるロードクロサイトらを見るなりフローラに尋ねる。
またやられたと、ため息をつくフローラはすぐに念話で指示を出すと苦笑してみせた。
「フローラじゃないの!もうまた美人になっちゃって。
いつもごめんね〜うちの子が何かやらかしてんじゃないかって。
あら?この子は?フローラの子供…じゃないわね。お名前は?」
フローラに気がついたエメラルダはいろいろ顔を弄っていたローズをさておき駆け寄る。
外見が若い分フローラと同世代に見えるエメラルダは両手を合わせごめんね〜
と言うと傍らにいたキルに気がついた。
「はじめまして。
このたび新しく2軍四天王に任命されたノーブリー=フィーンドゥ=キルと申します。
お分かりの通り魔剣士と鬼のハーフです。」
お辞儀をすると可愛いといわれ、抱き上げられる。
「へぇ〜じゃあ頭いいのね。や〜〜んもう可愛いー!
クラトカ、もう1人ぐらい子供も受けましょうよ〜。
もう本当に子供可愛いわw」
小さいときが一番可愛いわと、そういうとキルを下ろしクラトカの元へ戻った。
クラトカの言葉はフローラが意図的にタイミングよく開いた扉の音に掻き消され、
当の本人達だけにしか聞こえなかったようだが、
周囲は砂を吐かずにすんだとばかりにほっと胸をなでおろした。
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