額に一本角が生えた少年は母上に怒られる、と頬をかく。
「あ、すみません。ノーブリー様…って私もノーブリーなのでやっぱりいい慣れないですね…。」
「早く慣れてください。まぁ、他に誰もいないし堅苦しいことは置いといて…。何?」
 こそばゆい、という少年にキルは小さく笑うと資料庫の戸を閉ざした。
戸に手をかざすと一瞬にして結界を発動させ厳重な施錠を施す。
どうした?と弟に声をかけるキルにシュラは結界に感嘆の声を上げた表情となっていたのを慌てて頬をたたき、引き締めると顔を上げた。
「母上が義姉様と一緒に夕餉を作って帰りを待っていますって。兄上…仕事するのもいいですが少しは休んでくださいよ。もう3日間も泊まり込みじゃないですか。」
「あれ…。まだ2日目だと思ってた。アプサラスに連絡し忘れてました…。」
 廊下を並んで歩き、仕事のしすぎとたしなめる弟にずっと地下にある資料庫にこもっていたから日にちの感覚がおかしい、という兄は妻の顔を思い浮かべながらため息をつく。
 相変わらずですね、というシュラはくすりと笑った。
 
「ん…念話…………。シュラ、クォーツとナイツみてないかって。」
「妹達ですか?父上と歩いて屋敷に向かっている姿を見かけましたが…。魔王様ですか?」
 家の様子について話すシュラを止め、聞こえてきた念話にこたえるキルはシュラに尋ねる。
シュラの問いに頷くキルは念話で伝えたらしい。小さくため息をついた。
「まったく…魔王様も師匠に直接聞けばいいのに…。大体あの二人は師匠と行動しているんだし…。」
 やれやれ、というキルにシュラは笑うとパタパタという足音に気が付き顔を上げる。
 
「あれ?噂をすれば…。クォーツ、ナイツ。二人だけ?」
「うん。たった今蝙蝠の大群に連れてかれちゃった。」
「お腹すいたーって。本当に仲いいよねー。」
 藤色の髪を結んだ双子の少女は母親そっくりの顔でけらけらと笑い、最近生え始めた八重歯をかわいらしく見せていた。
「キル兄、今度お父様達の話し聞かせてね。」
「お母様のお話は昔いっぱい聞いたからいいの。」
 ねー、と言い合う少女はどこからか聞こえるどなり声にまた笑い、兄様またねーと言って走り去っていく。
 残された鬼の兄弟は顔を見合わせ呆れたように笑った。
 
 
「ふっざけないでくださいよ!また性懲りもなく武器集めしてたんですか!!僕はもうその試しに手合わせしませんからね!」
「使ってみなきゃ具合が分からないだろうが。前に買った剣…ローズの剣であっという間に刃こぼれするし…。重心偏ってて扱いにくかった。」
「知りませんよんなこと!大体クォーツとナイツを探してたんでしょうが!どうして僕なんですか!」
「あぁ、ちょっと小腹がすいたなーと思って。」
「だから僕はおやつじゃありません!!!!!ってちょっと!」
「「お父様ー!あたし達もー」」
「えぇ!?ちょっと!!!いっ!」
 
 
 にぎやかになったわねと、フローラは空を見上げる。
今日もまたいつもと変わらない騒々しい一日だったわね、というキスケと笑いながら優雅に夕暮れのティータイムを満喫するのであった。
 そうだわ、明日は視察のついでにモクリアに行きましょう、というフローラにキスケは頷く。
 
 
 威圧感を放つはずの魔王城からは明るい笑い声があふれ出るのであった。

 
-fin