「我慢の限界です!!」
そう怒鳴り込んできたのは二軍の隊員の面々。やっぱりかとローズは頭を抱えた。
キルを念話で呼び出し、落ち着いてと説得する。
「申し訳ございません!!なにがあったのですか!?皆さん。」
「キル様…。」
駆け込んできたキルは一軍の軍団長室…
つまりはローズが仕事をしている部屋に集まった二軍の面々を見た。
顔を見合わせた隊員たちは意を決したかのようにキルの目の前で膝を突く。
「失礼ながら…貴方様の父君であるウェハースなのですが…。」
「分かってます…。すみません、また父が重要書類を…。
あれは皆さんが2ヶ月をかけ作成した書類なのに…。本当にすみません。」
頭を下げるキルに自己嫌悪に陥る二軍の面々。
両方が謝るという事態に抱えていた頭が若干痛むローズ。
何かいい策は…と考え一時的にでも二軍から離すのが最優先だなとセイに目配りをした。
セイはすぐさま一枚の紙を取り出すと書類を書き出す。
「減給と言いたいところだけど…もうそれもないだろう。
今周期の給与はたしかもうすずめの涙もないはずだったからね。
さすがにこちらの軍にもういちど入れることはできないけど…わかった。
今度北に遠征に行く予定だから火番くらい出来るだろ。」
それに連れて行くから後はそちらで打開策を見つけてくれ、とローズが言うとキルは慌てて顔をあげ、二軍の面々も顔を向ける。
「前はこっちにいたんだから多少の扱いは心得てるよ。
ただ一軍は戦闘集団であり魔界の秩序を守るための番人でもある。
そこに使えないものがいては困るからまわさせてもらったんだ。」たぐ
迷惑かけているようですまなかったというとさらに恐縮した空気が流れた。
さすがに四天王長が謝るということに出すぎた真似をいたしましたと頭を下げ、いっせいに姿を消す。
「師匠様…本当によろしいので…。」
「そのかわり雪山を越えるんだ。もし遭難した場合は捜索できない。いいね?」
分かりましたというと御礼を述べ、キルも姿を消した。
「ジキタリス様。本当に大丈夫なのですか?」
「まぁ…多分大丈夫だろうよ。あれでも一応有名な一族なんだから。」
セイの心配げな言葉にローズは苦笑いを漏らした。
「今回の遠征は北地にてハーピーの集落を半壊にさせたものを拘束、
もしくは討伐するためのものだ。雪山を越えるが遭難した場合探すことは困難を極める。
よって捜索は一切行わない。皆肝に銘じるよう。」
そう号令をかけたローズは分厚いマントをまとい、出発した。
「ジキタリス様、雪の地といいますと…お体の方は。」
「ハナモモ。大丈夫。これでも僕は四天王長なんだからさ。
大体ハナモモの毛も凍ってしまうだろ?」
大丈夫というと副将のハナモモの肩を叩く。
本来吸血鬼ならば暑さは苦手でも寒さにはかなり耐久力があるものだ。
しかし、ローズは人間からなったがためか、多少は耐えられても長くは続かない。
防寒具を着込んでいるが戦闘に支障をきたすとマントの下は防寒具にしては若干軽装だ。
そのため今回には非戦闘として体温の高いものや毛の長い者が優先的に選ばれていた。
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