1ヶ月が過ぎ、ようやく戦いが終わると一行は帰路へとつく。
だが行きよりも休み休み進んでいた。
理由は部下を護るため、連続で聖魔法を唱えたローズの体調不良だ。
見つけた犯人はグレンデルという巨体で毛に覆われた半獣半人の群れであった。
冥属性をもつグレンデルには光属性が一番効果的だ。
そのためその親玉になっていた通常の倍はあるグレンデルとローズが対峙し、倒した後に“光華”という光魔法を操り30体近くいた群れを殲滅させた。
だが最後の悪あがきに唱えられた冥魔法を防いだものの、
吹き付ける吹雪に惑わされてそこに混ぜられていた氷の刃に手傷を負ってしまったのだ。
まったく、とため息をつき回復呪文を唱えたのだが吹き付ける吹雪に邪魔され、
満足に回復できずにいたのだった。
そのために誰もがローズに…四天王長ジキタリスのことを気遣っていたのだ。
「いいから。早く魔王城に戻ろう。そしたらゆっくり出来るから。」
その言葉に頷きつつローズの反対を押し切り休憩をとり、
ローズに回復呪文を唱え吹雪で奪われていく体力とそれを緩和させるために消費される魔力を少しでも減らそうと囲っていた。
その様子に苦笑していたローズだが、その休憩中嫌な爆音が響き、ローズは山頂を見た。
そこからは猛烈な勢いで下ってくる雪崩の姿。
とっさに自分の軍全員に呪文をかけ、弾き飛ばす。
「ジキタリス様!!!」
全員を飛ばしたことで魔力が尽きたのか、その場に倒れると同時に雪崩が彼を攫っていった。
「ジキタリス様!!!一体なにが…。」
「そんなことより早く探さねば!!
そんなに長い間この雪に埋もれていたら大変なことになる!!」
慌てて雪を掻き分けていくハナモモに続き炎の呪文や灼熱の息などを使い溶かしていく。
魔力なしでこの雪に埋もれるなど、いくらハナモモ達でも耐え切れるものではない。
ましてや耐寒性が人間に近いローズともなればそれ以下となるだろう。
「ジキタリス様!!こっちだ!!!」
声を上げる緑色のグールの周りにいっせいに集まる。
雪崩から助け出されたローズは完全に熱を奪われかろうじて息をしているだけであった。
おまけにどういうわけか、雪崩に巻き込まれていた武器の一つが脇腹に食い込んでいる。
幸い雪崩の中で血は凍結したようだが、急がねば命に関わる。
応急処置に治癒呪文を唱えるとファーファという毛の長い種族である者がローズを抱きかかえ、
犬の姿へと変化したハナモモにまたがった。
この軍においてハナモモ以上の脚力を誇るものはいないのだ。
「可能な限りのスピードでいく。皆は散乱した武器の回収、および原因解明を。
それが終わりしだいすぐに下山し、城に戻るように。
また吹雪が強くなりそうな場合はすぐに下山するよう。」
了解しましたという各小隊の隊長に頼んだというと一足に崖を飛び降りる。
出来る限り衝撃が少ない道を選びながら最短の道を探す。
崖を駆け下りると足に来る衝撃をそのまま前進へとうつし、森を駆け抜ける。
道中何かの気配がし、ハナモモは前方を見つつその正体を気配で探った。
【こちら二軍。一軍副将のハナモモとお見受けする。何事か?】
若い声の念話が聞こえ、ハナモモは声の主を呼び寄せた。
「緊急の用で戻った。クラマ、私よりも早くに城に戻れるだろう。
ジキタリス様を早く城へ。その道中詳しい話はしますので一刻も早く!!」
「ジキタリス様!?わかった。急ぎお送りいたす。ファーファの者、ここまでご苦労。
あとは某がジキタリス様をお運びいたす。汝も軍に戻らずこのまま城へ。」
ハナモモがもとの獣人に戻ると、今度はクラマが大きな三つ足の烏へと姿を変え、
背にジキタリスを抱えるハナモモを乗せ羽ばたく。
「−というわけです。ですので一刻も早く…。」
「そうであったか。急降下いたす。ジキタリス様をしかと抱えよ。
それにせよ武器とは…城に着き次第状況を説明後すぐに戻られよ。
妙な胸騒ぎがしてならん。」
クラマは念話で自軍の長であるキルへと口早に連絡し、城に向かって急降下する。
その間は念話が使えないためキルが何を言ったのかは聞き取れないが同様の胸騒ぎを感じていた。
ハナモモから念話での連絡を受けていたセイは水呪文を唱え、
泡を出すと急降下したクラマから飛び降りるハナモモの衝撃をやわらげた。
「ジキタリス様!!しっかりしてください!城に戻りましたから!!
あと少しがんばってください!!」
いつもは静かな彼女が取り乱したように大声で言うと、ハナモモと共に城の治療を行う部屋へと急ぐ。
そこには短時間とはいえ急ぎ準備をしていた治癒担当のケンタウロスが待ち構えていた。
治癒の専門一族である鳥人カラドリウスが手早く治療の準備を始める。
内部にとどまることはできず、どういう治療が行われているのかは誰も知らないことではあるが、
彼らにかかれば大丈夫だと、ハナモモは説明後クラマの足につかまり山へと戻った。
そこで見えた光景にハナモモは思わずうめいた。
縛られてなお、状況を読めていない男の姿にクラマまでもがうめく。
「ハナモモ様!!ジキタリス様は?」
「カラドリウスの者がいましたし、急いだかいあって助かるとのことです。
クラマがいなければ…本当に感謝します。」
よかったという声が上がり、皆口々にクラマへと礼を述べた。
「いっいえ、某は城まで運んだだけで…。本当に運が良かった。しかしてそのものがいかに?」
あまりの勢いに思わずひるむクラマは縄で縛られた…ウェハースを示した。
その途端誰もが怒りの形相へと変わりウェハースを睨みつける。
「山はごらんのとおり吹雪いております。
そのなか、グレンデルの群れより回収した武器などを数個に分け運んでおりました。
その中に火などを近づけると爆破する爆火岩があり、慎重に運んでいたのですが…。」
「幸い爆発したのは2つだけでしたのでよかったのですが…」
あぁ、やはりと副将である2人はため息をついた。
武器を運ばせていたはずなのだが、おおかた荷車を転倒させ、
その衝撃で手に持っていた明かりが引火したのだろう。
ただこれが今までと違うのは軽い罰などでは済まされないという事実。
事故とはいえ、一軍…いや四天王長の命を危ぶむまねをしたのだ。
もはや言い逃れは出来ない。
「某は先にこの者をつれて城に戻ろう。フェンリル、汝にはこの場の指揮を。」
クラマは再び変化すると第3の足でウェハースをつかみ、吹雪をものともせず飛んでいった。
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