「ジキタリス様が重態とはどういうことですか!?」
 クラマからの念話から急いで戻ったキルは魔王ロードクロサイトに聞く。
「一応は無事だ。しかし…ウェハースには困ったものだな…。
 ローズがとっさに全員を弾いていなければ一軍の主戦力をもろもろ消されるところだった。」
 完全に回復するまでウェハースは隔離され、
軍の秩序を保つために何とかローズの軍から不本意ながら守ることとなっている。
今までのこともあり、堪忍袋の緒が切れた第一軍の怒りは凄まじいの一言に限る。
早く彼らを統制できるローズが眼を覚まさなければロードクロサイト自ら出向くしかない。
一応今でもロードクロサイトが爆発しないよう抑えてはいるが出来るならば穏便に済ませたい。
 
【魔王様、ご心配をおかけしました。後数刻でよいようです。】
 突然聞こえた念話にロードクロサイトとキルはほっとため息をついた。
【お怪我の方は大丈夫なんですか?】
【あぁ、キルか。自分から預かるといって監督不届きでごめん。かなりまずい状況になった。】
 おかげでこちらの業務は滞りなく行えましたというキルに、多少なりとも役立ててよかったよという。
【ローズ、大丈夫なのか?それなら連絡を軍にまわして欲しいのだが…。】
【一軍にはもう連絡を入れましたのでウェハースだけは隔離したままにしてください。
 私刑は軍の統制を欠きますので。】
 ケンタウロス達がもう一度治療するらしいですと言うと念話を途絶える。
「とりあえずひと段落したな。ウェハースについては今一軍副将セイらが判決を下す。
 キルは今後もしばらくは城内での勤務を…。」
【念話失礼いたします。ケンタウロス族のケアロスです。
 魔王様、魔力を分けていただいてもよろしいでしょうか?】
 席を立ちかけたロードクロサイトとキルに突然念話が繋がった。
【どうした?】
【お止めしたのですが、つい今ほどジキタリス様より念話が通じたかと思います。
 その後お眠りになったのですが、予想以上に魔力が少なく自己治癒能力が回復しないのです。
 お命に別状はありませんが、回復後数年ほどは全体能力が低下する可能性があります。】
 ですので魔力を分けていただけたらという念話にすぐに行くと返事するとロードクロサイトは治癒の間へと向かう。
 
 キルは入り口で待ち、ロードクロサイトは出迎えたケアロスと共に中へと入った。
幾重にも描かれた魔方陣に囲まれた中にローズは液体が満たされた卵型の容器に入り、
細い管が体中、主に怪我をしていた箇所に集中して張り付けられていた。
魔力が低下した影響か、人間の耳に近い形になり勇者の紋が淡く光る。
人間である部分が未だ一割あるが為か、人の神がすきあらば人間に戻そうとしているのだ。
当然元には戻れないはずだが。
 これまでに勇者を幾人も見てきたロードクロサイトからみても、
一番勇者らしい強さと人望を兼ね備えていたものだとは明らかだった。
人間の神もそれで呼び戻しているというわけだ。
ケアロスに促され、魔石と呼ばれる宝石のような不気味に輝く石に手を置くと魔力を流し込む。
当分は自分の仕事が増えるだろうなとため息をつくと、
若干魔力の与えすぎで痛む頭を抱えたまま部屋をあとにした。