「ジキタリス様!!!」
「心配をかけてすみませんでした。このとおり元気です。」
 ゆったりした寝巻きのような物の上にマントを羽織ったローズが、
一軍を集めた広場へと現れるといっせいに声が上がる。
壇上からではあるが大丈夫だというと安堵のため息が広間を覆いつくす。
ほんと皆に悪いことしたなぁと微笑むローズだが、
傍に控えるハナモモとセイにとっては気が気でならない。
 最初の治癒から2週間。
本来ならば完全に治ってもおかしくはないのだが、なにせ元人間でしかも元勇者。
凍傷のダメージが予想以上に酷かったのと、武器による怪我の他に数箇所の骨折。
魔力が少なかったためか、耐久度が人間並みに落ちていたローズには雪崩は厳しかったのだ。
 通常ならば何も作用していない勇者の紋は、迷惑なことに体を護るため魔を弾く力を出し
治癒を受け付けないという力を発揮した。
おかげでロードクロサイトの魔力は通常の7割ほどしか届かず、
ケンタウロスやカラドリウスの魔法は半減させられてしまったのだ。
 
 なんとか回復したところで一軍の士気を高め、気を引き締めなおさないと秩序が守れないと、
そう言い無理やり出てきたのだった。
現に今、ローズの額には脂汗がうっすらと浮かんでいた。
 
 
「ウッド=ノティング=ウェハースについては四天王内で審判をくだします。
 皆を疑うわけではないですが、私刑は軍の秩序を乱します。
 よって、彼の居場所を明かすことはできませんが…
 万が一見かけた場合いっさい手出しをしてはいけません。いいですね?」
 ノティングと言った途端顔をしかめる者もいたが、首をかしげる者もいる。
「まだ正式ではありませんが、ウェハースは魔剣士一族、および細君の鬼一族、
 両族から追放令が出され、今まで名乗っていたポロテクトルは剥奪されました。
 本人がミドルネームを覚えているとは思えませんがこれは決定事項です。
 二軍ノーブリー=F=キルとは一切の関係がないということです。」
 一族からの追放と聞き、広場はざわめきが広がる。
吸血鬼や淫魔、その他多くの魔物は一族などを気にしないが、
犬一族などのように一族まとまっている種族にとっての追放というのは
本人からすれば死の宣告に等しく、この上ない不名誉で屈辱的なものだ。
また、そういうものが一族から出たというだけでも一族の汚点になるとし、
今までウェハースもそこまではされなかったのだが、
一族の恥をこのままにするよりは汚点として広がる前に固めてしまおうという決断だ。
 
「それと、一軍はしばらく二軍の指揮下に入る。」
 どういうことですかとざわめく広場に向かってハナモモが声を張り上げ鎮める。
ローズはふぅとため息をつくと椅子から立ち上がり壇上の手すりに手をかけた。
鈍く痛む脇腹の傷を抑え、痛みをこらえるように手すりをつかむ手に力がこもった。
「僕の場合皆が知っているとおり、耐久度がほとんど人間に近い。
 そのため回復が若干遅れてしまうんだ。本来ならこういうのは隠すべきなんだろうけど、
 無理に動いて長引かせては皆にも、魔王様にも迷惑をかけてしまう。
 それだけは我慢できないからね。」
 いつもの口調に戻り分かってくれるよねと微笑みかける。
元人間でしかも勇者だったというのは一度戦ったことも、以前の四天王長を倒したということもあり
知っていることだが、改めてローズの抱える問題に重々しく頷く。
「僕に用があるときはキルか二軍副将、もしくはハナモモか、セイに言えば必ず伝わるから。
 すぐに回復するから少しの間待っていてもらえると助かるんだ。」
「それならば、じっくりお休みになられていてください!」
「我らのために急ぐことはありません。」
「ゆっくりでかまいませんから!」
 口々にローズを気遣う声が聞こえ、ローズはアハハはと小さく笑う。
それじゃあ、と退出するローズは心配げな視線を痛いほど背に浴びながら、
人目のつかない通路へと出るとそばにいたハナモモに倒れこむ。
熱が出ているのに気がついたハナモモとセイは急ぎ治癒の間へと向かった。