数日後
「父さん?どうです。ご気分は。」
 自ら一軍を引き受けるといい、倍に膨れ上がった仕事の合間を縫ってウェハースに食事を届けるキルは地下牢に座り込む父に声をかける。
「おっ、おぉ、キル。あっあれはただ転んでしまっただけであって…
 おっおいらが悪いわけじゃあ。」
「…判決は明日言い渡されます。仕事があるので。」
 地下牢に入れられ不精髭が伸びたウェハースはアレは事故だと主張する。
その姿に事態を読み込めていないのかとキルは小さくため息をつき、
この場から立ち去ろうとする。
「あっあの四天王長がお、おいらにぜっ前線に出るなって。まっ魔剣士一族をなっなんだと。」
「父さん。あの方は私の師でもあり、私にとっては兄でもあります。
 あの方の判断に文句を言うならば父さんとて容赦はしません。」
 さっさとその場を立ち去るキルにウェハースは何か言ったがキルは聞かなかった。
 
 
「キル、表には死刑と発表するけど、こうして僕が生きているということで魔王様が術をかけ、
 永久に人間界に追放処分になった。」
 寝室で悪いねと背にクッションを置き、
包帯が巻かれた上半身を起こしたローズが書類をキルへと渡す。
傷自体は武器が貫通していたこともあり決して浅くはないが、徐々にふさがってきてはいる。
だが、やはりロードクロサイトや他の吸血鬼、淫魔に比べればかなり遅い速度だ。
「本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫だって。子供の頃だって酷い怪我して生きていたんだし、
 勇者だったときも大丈夫だったんだから。」
 それより早く治さないとまずいなぁとため息をつく。
「一軍で処理する書類は僕が引き受けますが…。
 他に何か出来ることがあれば何でもいってください。」
「なんでもって言われても…」
 さすがにキルは若すぎるしとつぶやき、う〜〜んと考え込む。
「じゃあ…。悪いんだけど…」
 
 ローズに言われ一軍が居る訓練所とローズの寝室を往復したキルは深いため息をついた。
まぁ…食事をして早く治るならいいかと足早にローズの館から立ち去る。
仕事に戻るかと歩いていると気配に気がつき、キルは暗闇に居る人物を見た。
「叔父さん?」
「あぁ、キル。そうだ、ウェハースがどこに居るか知ってるか?」
 黒いバンダナの下から結わいた襟足が覗く姿にキルは意外そうな声を上げた。
あの父とは違い魔剣士一族でも祖父の弟、ストロンガスと1・2を争うといわれるほどの腕前を持った
高名な魔界人。それがスティール=ダガークニフェ=スウォルド。
信じられないことにウェハースの弟だ。
「一応は。しかし…僕のいちぞんでは決められないので…。今、ジキタリス様に…」
「あぁ、今は無理だろう。
 なに、俺の魔剣はキルに預かってもらい同行すれば問題はないだろう?
 どうしても話しておきたい事があるんだ。」
 念話を使おうとすると、スウォルドはいやいいと手振りで伝える。
いつもの癖で何も気にせず使うところだったが、
すぐに思い出しそれならばとスウォルドに軽い目をくらませる術を使い案内した。
「念のため目隠ししましたけど…くれぐれも内密にお願いします。」
「これ以上あの馬鹿のおかげで優秀な甥に苦労をかけるつもりはない。安心していいぞ。」
 それに奇襲攻撃はお前の方が優れているんだから、
というと魔剣士の命よりも大切な魔剣をキルへと手渡し、牢屋の中へと足を踏み入れた。
話の邪魔になってはいけないとキルはその部屋のいっそう暗い位置で静かに気配を隠し潜む。