「ウェハース。久方ぶりだな。」
「スッスウォルド?よっよくっこっここに…」
みすぼらしさが格段に上がった兄の姿にめまいを感じつつ、スウォルドはため息を吐く。
「キルに無理を言ってね。それより。よくも一族に泥を塗ってくれたね。おまけに鬼一族にまで…」
「でっでもあれは…」
「一度たりとも戦場でまともに戦ったことのないやつに言い訳を言う権限はない。」
もごもごとあの四天王長が…というウェハースを黙らせ侮蔑の目を向ける。
「これだけはどうしても伝えたくてね。父さんから…一族から全員一致で決まった。
お前は永遠に一族から追放だと。そしてもはや俺の兄ですらない。
わかったな?我が一族にお前のような弱者など初めからいなかったのだ。
敵に背を向け陰に隠れて味方に損害をきたす愚か者など…」
静かな口調で兄をなじるスウォルドだが、そこまで言ったところで黙ったままの甥に目を向けた。
目の前で親を侮辱されるということに対しても気配一つ乱すことなく、
闇に溶け込んでいるというとは並大抵のことではないはず。
さすが最年少で四天王の一角に入り、魔王軍という巨大な軍の動きを把握し、
瞬時に突破するための戦略をたてる歴代でも1・2を争う…
いや、歴代一位だろうと思われる頭脳。
そして決断するにあたってどんな結果でも決して揺らぐことのない精神力を持った甥だと感心する。
「いや。忘れてはならなかったな。お前だったからこそ、甥のキルが生まれた。
それだけは誰にもできないことだ。」
「とっ父さ…当主がつっ追放と…?」
愕然とした様子で言うウェハースにスウォルドはあぁと頷く。
その場に崩れるようにして座り込むウェハースにスウォルドはさよなら兄さん、
というとキルに声をかけ牢を出る。
「父さん。明日、執行場の牢へ移送されます。
今夜は魔の神にでも自分の犯した罪を悔やみ、謝罪していてください。」
それではと牢に錠を下ろし、来た時同様スウォルドに目をくらませる術をかけ、
元いたローズの館へ続く道に戻った。
「すまなかったな。目の前でウェハースを散々侮辱してしまい。」
「いえ、いいんです。四天王という役柄についているおかげか、
父のことはよく聞いていましたから。それより…どうしてここに居たんですか?」
そういえば出る時ローズのところにいくといっていたからかなぁと思うがそうではなさそうだ。
「まだ若いのに強いな。ああ、あの馬鹿のおかげでジキタリス様が負傷されたんでそれでだ。」
やっぱりと頭を抱え、案内しますかと聞くが分かるからいいといわれ、
館に消えていく叔父をキルは見送った。
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