ロードクロサイトが溜めに溜めた書類を半ギレでローズが片付け、
とりあえず一息つくと魔界から抹消…つまり魔界から消え去る死刑執行日。
狼男にひかれ歩くウェハース。
一軍の目を欺くために彼には人間界への永久追放とはまだ通告されておらず、
青白い顔をしたウェハースは今までないほど目を動かしあたりを探った。
何故人間の世界に通じる扉が近いのか、普通はあまり思わないのだがそこに逃げ道を見出し、
ウェハースは狼男の隙を窺った。
 
そして一瞬。
 
 狼男の本当に僅かな隙をつき、
思いっきり突き飛ばすとウェハースは人間の世界へ通じる扉へ向かい走った。
「父さん!?」
 まさかの行動に誰もが唖然としてしまい、
キルですらウェハースの消えた扉を凝視してしまった。
はっとなり慌てて後を追うが、何せ追放するためにどこと選ばずつなげた扉。
不安定だったおかげかウェハースが消えた場所ではなく別の場所へと切り替わってしまっていた。
 途端に増す怒りと憎しみの感情。
握り締めた手から血が流れキルの額の角がめきめきと少し伸びる。
 
 
     ウェハースは逃げ出したのだ。
 
 
「問題はウェハースではなく、魔剣だね。
 あれは自分から差し出さないと外れないタイプだから…。」
 一応は分かっていたのか、これはシヴァルからのだからといって手放さなかった鬼一族の家宝。
追放する際に唱えられる呪文で魔剣は主がいなくなったと思うため誰にでも取れるようになるもの。
そのためまぁ大丈夫だろうとは思っていたが、まさかの行動だ。
 予期せぬとはいえ、完全な失態にローズはどうしたものかと頭を悩ませていた。
傷は大体ふさがったが、能力だけはあと10年は治らないといわれたローズだが、
そんなことは二の次だ。
「今人間界は自分の国を広げるために小さな国が隣に領土を広げる戦争をしている。
 そこに魔物が入るとなれば魔王様の食となる人間が減ってしまう。
 どちらにせよ人間の世界へ追放が決まっていたんだ。城以外の出入り口を封鎖。
 ウェハースはしばらく放置。
 キルとフローラ、そしてキスケには本当に悪いけど、
 僕の力が弱まったことで魔王様には向かおうとするもの、
 四天王の座を奪おうとする物が必ず出てくるはずだ。それらを排除して欲しい。」
 無駄に有能そうなものを殺したくはないんだけどねというとフローラも同意する。
「ただ思い上がった馬鹿なら4軍でどうにかするわ。」
「ちゅうちちうっちちゅ。(獣や獣人はあたしが管理する。)」
「計画を企てる様子や、密会など調査しだい場合によっては内内に。」
 次々に了承する部下であり同僚である四天王の姿にローズは頷く。
「あ…キル、副将に連絡したら僕の所に来て。いいね。」
 去り際に呼ばれキルは分かりましたと答えた。
ローズが呼び出した理由に思い当たることはあり、深いため息を広い廊下へと吐き出した。