大きく広い、鬼ならではの和風なたたずまいの屋敷。
自分の実家へとローズをつれてきたキルは障子戸を開けローズを先に通す。
毎日キルが帰宅すると出迎えるシヴァルは何があったのかと驚き、
ローズのすぐ後ろに控えるキルを見た。
「ノーブリー=ラセツ=シヴァルさんですね。
魔王軍四天王長一軍軍団長ジキタリス=サルビア=チューベローズです。
既に一族、および僕の軍から通告が来ていると思いますが、
ウッド=ノティング=ウェハース…以前はポロテクトルでしたが、
本日彼の死刑が執行されました。」
罪状は今更言わなくとも大丈夫ですね、
と言うが悲しげな顔で聞くシヴァルは小さく頷くだけだった。
ふぅとため息を短く吐き、キルに座敷まで案内してもらう。
「気を確かに持っていてもらいたいのですけど…。
本日彼は人間界へ永久に追放となるはずでしたが、兵の隙を付き逃走。
現在魔剣と共に人間界へと姿を消しました。」
ですので、と巻物を出す。
そこには絶縁書と呼ばれる金輪際、ウェハースを夫として観ず縁を切るという制約が書かれ後は名前を書くばかりになっていた。
つまりは離婚書にサインをし、血縁上は仕方ないが、
未成年であるキルとシヴァルはウェハースとは表面上縁を切ったということにしてほしいというのだ。
「はっきり言って今回のことで以前から若すぎる出世として、
妬んでいた連中が早くもキルを四天王から引き落とそうともくろむ愚か者が出てきています。
今はまだ2軍で秘密裏に消していますが、増える可能性が非常に高い。
幸い、キルは鬼と魔剣士のハーフです。
誇り高く同種族に対し厳格な規則などがあることで有名な鬼族、
魔剣士族の両族が絶縁書を出すことによって、完全に追放されたとみなされます。
そうなればたとえウェハースの不祥事を理由に何か言うような輩がいても、
関係ないと言い切ることができます。」
わかりますよね、という言葉にシヴァルは頷き、サインをするとキルを抱き寄せる。
「今までごめんなさい。これでもう父のことで頭を悩ます必要はありませんよ。」
「いえ…。」
師匠の目の前ということもあり、少々気恥ずかしいと思いつつ母の背を撫でる。
「さて…硬いことはここでおしまいとして…。これは明日、鬼一族の当主に出してくるよ。
本当に悪かったね…。もう少し気を配っておくべきだったよ。」
「そんな。最後まで調整してくれたりして…死刑確定を追放でとどめてくれたじゃないですか。
それに…勇者の紋が常時フルで発動しているということはかなり無理をされているのでは…。」
書類をしまい、座りなおすとすまなかったと頭を下げる。
それに対し、キルはとんでもないと首を振る。
「あぁ、うん。ちょっと風邪引いたらしくてこじらせかけているんだよね。
でもまぁまた明日から仕事全部セイにとられちゃったからしばらく休養するよ。
この問題だけは早く片付けたかったから。
僕の弟子を妬むような無能な連中がこれ以上増える前にってね。」
にこっと微笑むとさてとと立ち上がりかけバランスを崩す。
とっさに立ち上がったキルが支えると手を握りはっとする。
「酷い熱じゃないですか!!母さん、開いている部屋ありますよね。」
「いやこれぐらいなら別に…。」
汗を滲ませながらのその言葉には説得力どころか、言葉にさえ力が入っていない。
シヴァルが肩を支えると開いている部屋へと向かい、キルがすばやく敷布をしく。
水の張った桶を持ってくると布を浸し、青い炎を水に浮かべた。
瞬く間にいくつかの氷が浮くと布を絞りローズの額に乗せる。
傷からの熱かとキルは別の布を絞ると血が滲む傷跡へとのせ、ローズの反応をうかがった。
「キル、その服ではくるしいでしょう。
あの人が残したので申し訳ないですけどまだほとんど着ていないのがあるはずです。
今もってきますからキルは身体を拭いて汗を流して差し上げてください。」
キルが頷くとシヴァルは換えの服を探しに部屋をでる。
残されたキルはローズを手伝い軍服を脱がすと布を固く絞った。
髪を手で押さえたローズの背中には3本の傷があるが今回のものではない。
未だ包帯を巻いている脇腹は特に熱く、キルはそっと巻き取った。
「悪いね…。」
「こちらこそ。ちょっと失礼しますよ。」
背中を拭き、前に回ると勇者の紋を間近に見る。
まじまじと見たことがなかったキルは思わず観察するようにじっくりと見た。
紋ははっきりと肌の色と特別され、今は淡く光っている。
「今あんまり触んないほうがいいよ。
一番熱もってるのそれだけど聖なる力とやらでかなり危ないから。」
熱を感じ、手を伸ばしかけたキルはそういわれ慌てて手を引く。
「なんだかありがたいのか迷惑なのか良くわからないですね。
どうします?足も拭きますか?」
「何度か命を助けられているというか生かされているからなんだか良くわからないんだよね…。
いいよ足は。着物って足元涼しいから汗掻いてもすぐ冷めるだろうし。
っていうか人の家の布団で下着一枚ってすっごい情けない姿なきがするんだけど。」
シヴァルが来るまで横になったローズはやれやれとため息をついた。
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