布をゆすぎ、冷たくしたものを額と傷に乗せ、触らないよう紋の上に一つ広げて落とした。
どれくらい熱があるのか測る為近くにあった棒で引き寄せると布を回収し、再び冷やして落とす。
「あのねぇ…。触らないほうがいいからって…。」
「でもこれで一応熱は取れるでしょう。あ、母さんありましたか?」
縁側を歩く音がし、障子が開くと真っ先にキルが尋ね、
ローズは腰上まで上掛けを引き上げた。
「一度しか着ていない物はこれしかなかったのであまりいいものではありませんが…。
あぁ、キル。包帯を取ってください。新しいものがありますから。」
シヴァルが抱えていた浴衣は灰色の生地に細やかな刺繍がほどこされ、
寝巻きに使ってはもったいない代物だった。
慌てて何か自分で出しますからというがシヴァルは魔力を使うことに首を振った。
「聞けば魔力を回復し蓄える能力が一番支障をきたしているとキルから伺いました。
この浴衣は一度しかまだ役目を果たせていません。
ですからあの人のもので本当に申し訳ございませぬが着てやってください。
少し起こしますので失礼します。」
キルから受け取った包帯を巻くため冷やしていた布を桶に戻すとローズを抱え、
手早く巻いていく。
自力で起き上がっていられるとローズは言いかけたが、
しどろもどろに目を泳がせキルに助けを求めた。
「母さん…師匠様に胸が当たっています。」
「あぁ、すみません…。インキュバスの方でしたら大丈夫かと勝手に勘違いしておりました。」
「いっいや別に…その…。」
包帯を巻き終わり離れるとローズは顔を赤くしたままどうにか説明しようとする。
だが意味のなさない言葉の羅列でまったくもって意味不明だ。
以前聞いた話ではローズは女性が苦手と聞いていたが、
免疫というか耐性が低いからではとキルは納得し、シヴァルに浴衣を着せられる師匠を眺める。
「すこし大きかったでしょうか?」
「あ〜…まぁ…。でも大丈夫ですよ。ただ小柄なだけなので…」
袖が大きくほとんど指先が出ていないローズにシヴァルはそうつぶやく。
まだ目を泳がしているローズは普段認めない自分が小柄だということを口走った。
「師匠様はいつも背をごまかしているだけで普通に見れば背は小さいんです。
見かけにたがわず軽いですし。」
足元をどうしましょうというシヴァルに、キルが助言するとローズは慌てて否定しようとするがシヴァルに持ち上げられてしまい更に顔を赤くした。
「失礼いたしました。ゆるく結んでいますのできつくはないとは思いますが大丈夫でしょうか?」
笑みをこぼしながら言われてしまい、ローズは横になりながら小さく大丈夫ですとつぶやく。
程なくして眠ったローズにキルは桶を抱え縁側に出る。
その後に続きシヴァルも出ると桶の水を庭に捨てるキルの背後で楽しげに笑った。
「どうかしたんですか?」
「いえ、初めてお会いしましたけど…可愛らしい方ですね。」
首をかしげるキルだったが、シヴァルが頬に手を当て笑う姿に更にわけが分からず首をかしげた。
翌朝、熱が動けるまでに下がったローズはシヴァルに礼を言うと自分の館へ帰った。
帰る間際にシヴァルがキルのことでいろいろ礼をしたいのでまた来てくださいと約束をこぎつけ、
しっかりと約束を交わしていたのはまた別の話。
ーfinー
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