パタパタと少女は狭いわけではない里の敷地を人目を避けて走っていた。
勝手に親に将来を決められ、それに備えてと毎日毎日ほとんど遊ぶ暇もなくやれ料理だ、やれ着付けだ。やれ洗濯掃除だ…。
たまには友達とも時間を気にせず遊びたいし、なにより外の世界を見たい。
なんとか、探している親の目を避けるために木に登って隠れる。
遠ざかる姿にホッと息を吐くとカサリと軽い音がし、幹にもたれたまま前を向いた。
「「!?」」
思わず上げそうになる声を寸でのところで飲み込み、同じように驚いた様子の少年を見返す。
額に突き出た2本の小さな角と和服で同じ鬼だとホッとする半面、怒られるのではないかと恐る恐る赤みがかった金色の瞳を見つめた。
「こんなところで何してるんです?」
首をかしげ、赤黒い髪を揺らすと少女の耳の後ろから生えた一対の小さな角に里の子かと出方をうかがった。
「わっ私を探しに来たんじゃないの?」
「いえ。僕は今から来る師匠を迎えに行こうと…。他の方に会うのが面倒だったので上を通っていたのですが。」
そういえば身なりがいい女の子だな、と考えるキルは自分がここにいる理由を話す。
きょとんとした顔の少女は若草色の髪を揺らし、水色の瞳を瞬かせる。
何かを話そうとしたキルだったが、急に米神あたりを抑え里の入口へと目を向けた。
「まったく。いっつもいっつも…。後で覚えてろよ…」
ちっ、と舌打ちをするキルは、さらに首をかしげる少女に目を止める。
思わず素が出てしまったキルは取り繕うかと考えるが正直めんどくさい。
年端もいかないようなどうでもいい里の子にどう思われようとどうせ一期一会。
「すごーーい!今の念話!?」
突然の大声に目をしばたかせる。
キラキラと瞳を輝かせる少女は隠れていることも忘れて大きな声を出していた。
「まぁ…そうですが…。」
「すごい!!それって使える人少ないんでしょ。うわ〜〜。すごいなぁ。」
目を輝かせる少女に思わず身を引くキルはなんなんだ、と内心首をかしげた。
あまり里の子との交流がないせいか、年が近い少女と言うものに初めて遭遇する。
そのせいで、2軍の長でありながらまったくもって対処方法がわからない。
「えぇっと…あなたはどうしてここに?見たところ木登りをするような姿ではないかと思いますが。」
とりあえず、ここにいるのは危ないんじゃないかと考えたキルは改めて少女の姿に目を移す。
綺麗な着物は現在はあっちこっちに葉をつけ、走ったせいか髪が乱れている。
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