「師匠、まったくいつもいつも…。お人よしなのもいいですが、自分の損得少しは考えてください!!」
「でも…ほら、困ってたし。」
念話で聞いていた通り、なぜか門のところで子供をあやしている師匠の姿にキルは深々とため息をはいた。
家に忘れものをしたから取りに帰るのは別にいい。
なぜ子供を置いていくのだろうかと、預けた母親に厳しくいってやろうとキルは軽く睨む。
このお人よしすぎる性格はどうにかならないのか、とキルは大きなため息をついた。
ふと、そういえば先ほどの少女。
名前を聞いていなかったな、といくら不必要な情報とはいえ常に情報を集めるのが鉄則な2軍の長である自分のまさかの失態に思わず自嘲気味の笑みがこぼれる。
「どうかしたの?」
弟子のこぼした笑みにローズは首をかしげると、弟子よりも小さな子鬼を抱き上げる。
「いえ、先ほど珍しく高価な着物を着た方が木に登っていたのを思い出しまして。名前を聞きそびれてしまったなと。…なに気持ちの悪い顔しているんですか。」
「いえ、キルも思春期かなーって。へぇ〜鬼の女の子ってあんまり外でないんでしょ。」
にやにやと笑う師匠を睨む弟子。
ローズは弟子の成長をしみじみ感じると、手元の子供を見た。
まだ親と一緒だったからであるいていたのだろうが、よく弟子の家に来ているローズですら幼い女の鬼を見るのは2度目だ。
「思春期って…何を言っているんですか。まだそのような年齢ではありません。あまり出歩かないといいますか、主に屋敷の中で過ごすか、庭先で遊ぶかなどしております。あぁ、確かに家の敷地内からは出歩いてはいませんね。」
何を言っているんだ、とあきれ顔になるキルは急ぎ足でこちらに走ってくる女性を目にとめた。
女性は子供を預けた人物の隣にいる陰に気がついたのか、はっとした顔でかけてくる。
「ましてやタマモさんが着るような着物で木登りなんて普通しませんよ。」
「まぁ…そりゃたしかに珍しいね。どこの時代にも種族にもおてんばな女の子っているもんだねぇ。」
とりあえず一言言ってやらねば、と顔を引き締めるキルにローズはくすりと笑うと女の子の背を軽く押し出し、母親のもとへと向かわせた。
-fin
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