母シヴァルに頼んで師匠の屋敷まで足を運んでもらっている間にキルはメモを見ながら料理を開始していた。
 さすがにルーに関しては師匠の言うとおり一朝一夕で身につくものではなかったため、一緒に作ってもらったものを用意してある。
昨夜仕事をしていた師匠の寝不足を気にしていたのだが、いいからいいからと手伝ってくれた上に、シヴァルへ用事を用意し、ひきつけることまでしてくれたのだ。
後で何かあげよっと、と考えたキルはふとクラマの言っていた”もう一つ”の大切な日を思い出した。
いろいろ万能な師匠なだけに考えるのは大変だが、考えるのも楽しい。
まぁ、何をしても師匠なら笑顔で喜んでくれそうだ。
 
 
   今戻りました、という声が聞こえキルはどきりとしつつ、玄関へと向かう。
師匠が何をしたのかは聞いていないが、ちょうどいいタイミングで帰るように配慮してくれたらしい。
「あら…これ一人で作ったのですか?」
 食卓に置かれたカレーに驚くシヴァルは落ち着きなくそわそわしている息子を見ると、くすりと頬笑み、手を洗うと座る。
いつものように向かいに座るキルはそわそわとして年相応の顔をのぞかせていた。
「それでは今日は私があいさつしますね。頂きます。」
「あ、あっはい。頂きます。」
 ニコニコと微笑みながら口に運ぶ母の姿にキルは初めての暗殺でもなかったんじゃないかと、今までで一番ドキドキしているんじゃないかと、早まる鼓動に戸惑いつつ最初の一口を見つめる。
「おいしい。」
 頬笑むシヴァルが嬉しそうに呟くのを見るとキルはほっと息をはき、自分も食べ始めた。
辛いのが好きな母のために師匠と辛さをどこまで入れるか悩んだ末にできたルー。
 久しぶりに母の背を流し、並んで寝るキルは師匠へ何をお返ししようかと考えつつ、これからもこの行事をやっていこうと心に決めるのであった。



-fin

 
 




キル初めてのお料理でしたw
ちなみに、あっちこっち力が逸れそうになったのは、単純に力加減ができていなくて、
きちんとつかめていないからです。
初めての料理、なかなか難しいですよね。
鬼一族は男尊女卑の傾向がありますが、キルは男女関係なく、
尊敬出来る人は尊敬するが、愚かものは卑下する価値もないと考えているほうです。
力がないくせに力がある女性を卑下するような輩は生きる価値も、殺す価値もないという考えも持っている。