鴉天狗の里。その周囲には例年、美しい紅葉が望める山があった。
今年もまた美しく色付き、普段静かな鴉天狗たちは満月の晩を待ちわびていた。
「うわぁあああ!」
物が倒れる音にキルとタマモは思わず首をすくめる。
片足だけ巻き物の山からはみ出た姿にやれやれと大きく息を吐く。
「何をしておるクラマ。近頃妙な行動をとっておるが…。」
「クラマ、ちゃんと片してくださいよ。」
がばりと起き上がり、急いで巻き物を片付けるクラマに、
タマモは何をしているのかと問いかけ、キルはどうしたんだろうかと見る。
「なっなんでもない!あぁ今夜は上弦の月…。あと一週間…。」
「そういえば紅葉の季節でしたね。鴉天狗の里の近くにある山は今年もきれいだとか。」
月を見上げ、呟くクラマにキルは手元の巻き物を仕舞い、手にしていた筆を置く。
その言葉に手にした巻き物だけでも棚にしまおうとしていたクラマは躓き、
再び山へと埋もれた。
「騒々しいのぅ。想い人でもできたのかぇ?」
「えぇ!?鴉天狗の女性って少ないんですよね?それを…。」
「みょっ妙な勘ぐりは!そっそうだ…。タマモ殿!!!」
タマモは扇子で口元を隠しているがこの上なく楽しいと顔に書いてあり、
キルはキルでまじまじとクラマを見る。
あたふたと巻き物を2本重ねて巻いているクラマはそうだ!とタマモに詰め寄った。
普段見せない行動にひるむタマモは扇子を閉じ、新しいおもちゃを見つけたように眼を輝かせる。
「その…タマモ殿はその雌よりな発想と言うか、女々しい趣味をお持ちと言うか…。
セ…セッカとハツユキに何かあげようと…。
とっ年頃の子にあげるのに何がよいかとずっと考えていて…。」
「失礼なヤツじゃ。まぁ…。あの娘くらいの年頃ならば…
そもそも白烏ならば花の髪飾りなど…。」
あたふたと話すクラマに、こみ上げてくる笑いが抑えられないタマモは
それでよいじゃろうと言う。
「そうか…花…。月下美人もいいし…サザンカも…。あ、こんな時間。
某は退出させていただきます。」
バタバタと巻き物のような塊を棚に押し込み、窓からヤタガラスの姿で飛び出していく。
「これは…。「図星ですね。」じゃな。」
巻き物を取り出し、巻き直す2人は同時ににやりと笑うとどうやって聞き出そうかと、考えた。
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