屋敷に寄らず、鴉天狗の里にやってきたクラマは紅葉を見る丘へと足を向け、
絶景ポイントを探る。
「できれば満月が望めて…落ち葉の落ちる泉があれば…。あぁでもそれはで贅沢…
いや…でも。」
「クラマ。何ようでまいった?」
ぶつぶつと探しているクラマに声が掛かり、ぎょっとしたように振り向く。
「おっ脅かさないでください。
そうだ…父上!どこかに絶景ポイントはありませんか!?」
「絶景…。あぁ。そうだな…」
詳しい場所を聞き、頷くクラマに、
蒼みがかった黒羽を持つ父は何か気がついたかのようにそういうことかと呟く。
頭の上に高々と結わいた深い藍色の髪を揺らし、若干背の低い息子の肩に手を置く。
「そうかそうか。お前ももう年頃だからな。」
「そっそういうことじゃなく…あ!ハツユキ、セッカ。久しぶりだな。」
よしよしと頭を撫でると慌てたように手を払うクラマはその後にいる姿に気が付き、
声をかける。
「兄上―!久しぶりなのじゃ。」
「兄様!お元気でしたか?」
白い髪と薄桃色の着物をなびかせ、駆け寄る双子の少女は兄に飛びつくと
クラマも顔を和ませ、頭を撫でた。
まだ若い彼女たちですら口元を覆う鴉天狗特有の覆面をし、ケラケラと笑っている。
久しぶりに実家に帰ることとなり、クラマは里の中を妹たちと手を繋ぎ歩く。
道中、一本下駄を履く父と兄と違い、草履を履いたハツユキとセッカは
とことこと歩き、女性が圧倒的に少ない里の中を歩く。
当然若い鴉天狗たちの注目の的となっているが、
魔王軍2軍の副将を務める兄が居るため遠巻きに見つめるだけだ。
「そういえば兄様、この前一緒にいらした綺麗なじょ…」
「あーーーーーー!はっハツユキ、もっ紅葉が髪について…。」
「兄上、お顔が真っ赤じゃ。」
何気ないようなハツユキの言葉に慌てるクラマにセッカは笑う。
その慌てるクラマにポン、と手が置かれ力がこめられた。
「左様か左様か、クラマ。」
「後ほど一献かわしながら聞きたく思うのだがよいかな?」
「今宵は上弦の月。まだまだ満月まではあるゆえ、ゆるりと話を聞こうではないか。」
「魔王軍での話もいろいろ聞きたいなぁ。」
だらだらと嫌な汗をかくクラマの肩に腕が回され、首元でがっちりと拘束される。
そのまま集会場へと引きずられ、あっさりしたものが好きなクラマに、
油たっぷりの鴉天狗伝統肉料理を振舞われるという
クラマにとって拷問のような時間が流れるのであった。
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