「気持ちが悪い…。」
 ぐったりと机に凭れるクラマの羽は弱弱しくたれている。
尋問してやろうかと構えていたタマモはあまりにも哀れすぎるその姿に、
キルと顔を見合わせた。
「大丈夫ですか?クラマ。」
「吐きそう…。昨日の晩から今の今まで…何も食べてないのに…。
 油のにおい思い出しただけけで…うぇっ…。」
 真っ青な顔のクラマにキルが声をかけるが力なくたれた翼がさらに下がり、
その弱弱しさにタマモが立ち上がる。
「いじめられないではないか。仕方ない。今日は妾が片付けておくゆえもう下がれ。」
 よいしょ、とクラマの前に置かれた書物や巻き物を自分の机へと移動させた。
「かたじけない…。それと…窓から退出しても…。」
「昨日…あぁもう一昨日か。その時も窓から帰ったの覚えてないんですか…。
 罠にかかっても困るのでいいですよ。」
 よろよろと窓によるクラマにキルは許可を出すと、
飛び去ろうとして落ちていくヤタガラスに大きくため息を吐いた。
 
 
 
「ヤタガラス…クラマ?シャムリン、リンドウを摘んできて。
 花じゃなくて鱗茎をとってきて。それと。」
 気持ち悪さと空腹と疲れで眼を回し、どこかに落ちたらしいクラマの耳に
誰かの声が聞こえそのまま気を失った。
 ぼんやりと眼を開けたクラマは元の鴉天狗に戻っていることに驚き、辺りを見回す。
「ここは…。」
「僕の屋敷。庭先で倒れてたからびっくりしたよ。」
 よいしょ、と起き上がる銀髪にクラマの思考が停止する。
「結構弱ってたから僕の生気分けたんだけど…。眠くなって寝たみたい。」
 眠いなぁとバンダナを被りなおし、目を瞬かせるクラマの前で手を振った。
「ジッジキタリス様!そっそのすみません!!あのえっとその…。」
「いいよ別に。クラマには以前命を救われたからね。これぐらいなんでもないって。」
 指を鳴らし、服の色を変えると窓を開ける。
「紅葉…。そうだ!紅葉!!」
 窓から見えた庭の景色に飛び起き、めまいに襲われへたり込む。
「無理しないほうがいいと思うよ?あ、そうだ。セヤって女性の名前だよね?
 僕の屋敷のでよかったら花もってっていいよ。」
 寝言でいってたよというローズの言葉にクラマは冷や汗を流した。
眼に見えて動揺しているクラマに笑うと手招きをする。
 素直に従い、庭に出ると四季関係なく咲き乱れる花の間を歩き、奥へと進んでいく。
「それで…花いる?寝言ではそういってたけど…。」
「ぜっぜひ。ジキタリス様は淫魔ゆえ何か進言がいただければ…。」
 藤のアーチをくぐり、月下香の咲く道を歩きながらクラマは是非と言う。
「淫魔って言っても…あ、そっか。2軍なら僕が普通のインキュバスとは
 違う方法だって知ってるか。そうだなぁ…。んーー。
 あんまり難しく考えないほうがいいと思うよ。あぁあったあった。」
 振り向き、首をかしげるローズは目当てのものが見つかったのか、
ガサガサと茂みの中へと入っていく。