魔界。
そこは大きく4つのエリアに分かれている。
人間と戦う魔王城の魔界で出入り口がある元も賑わいのあるのが淵藪(えんそう)。 様々な集落があり、強いものも弱いものも入り乱れている淵瀬(ふちせ)。
巨人系等の大型で凶暴なものが多く住む淵底(えんてい)。
そして最も奥深いエリアの深淵(しんえん)。
深淵にいたっては魔王ですら適わないのではとも言われる、
ドラゴンや飛龍が多く住み、そのほかにも神々さえも
恐れる魔物がいるとも言われている未知の世界だ。
広さとしては淵藪と淵瀬が広大な面積を持ち、
知られている限りでは淵底と深淵はさほど広い世界ではないとされている。
“迷わずの森”と呼ばれている森があるのは、
淵瀬の中でも温厚な魔界人や獣人などが住む集落の多い地域であった。
淫魔の集落も守られるようにしてひっそりと小さくも美しい泉の畔にあり、
静かに暮らしていた。
その集落の傍、ブラッド・ビルベリーの生る小さな木のそばに
ある吸血鬼の夫婦が移り住んでいた。
その夫婦には20歳になる子供が1人おり、血を吸わないという約束の下、
淫魔と仲良く暮らしていた。
そんな “迷わずの森”である日、奇怪な事件が起きていた。
何か凶暴な魔物が住み始めたという。そんな噂。
「リリー。ホタルキノコ10個くらいとってきてもらってもいい?」
薄いブロンドの髪を結んでいた少女はその声に顔を上げ、
黄金色の髪をした母親を見上げた。
「私その呼び名好きじゃないの。
リリムだなんて普通ミドルネームにつけるものじゃない。
私絶対独り立ちしたら名前変えるから。」
すみれ色の瞳を強く光らせ、そっぽを向く少女に困った子ね、と微笑む。
「分かってるわ。はい。ホタルキノコお願いね。
最近迷わずの森に何か異変が起きているみたいだけど…貴女なら大丈夫よ。」
「はいはい。じゃあ行って来るわ。」
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