まったく、と森に入ると早速キノコを見つけ、籠に入れる。
森で起きている異変とは魔獣の死体やら食べられた木の実やらが
そこらに落ちているのだ。誰の仕業かはわからない。
森の奥に入り、目標の数を手に入れるとリリムは数と大きさを眼で確認し、
集落のあるほうへと向かう。
その間も食べかけの果物などを見つけ、何かしら?と首をかしげていた。
 
「それにしても…妙ね…。」
「そこに誰かいるのか?」
 呟く声に突然別の声が重なり、リリムは幻術の準備を手元で構え、
声の主を振り返った。
そこにいたのは青い髪を首のところで結わいた少年。
赤い眼をリリムにむけ、淫魔かと呟く。
「淫魔ならこの森の出口知っているだろ。そこまで案内しろ。」
「はぁ?何を言っているのかしら?人に頼む態度?
 そもそも、こんな森でどうして出入り口が分からないのかしら?」
 命令口調の少年にリリムは嫌な顔をする。
小さな子をしかりつけるように言えば少年はむっとしたようにリリムをにらみつけた。
「道がわかれば一週間もいない。
 確かに黒いキノコを曲がって5つのキノコを通り過ぎた気がするんだけどなぁ…。」
 さて困った、と言う少年にリリムは思わず言葉を失う。
「キノコなんて目印になるわけないでしょ!ばっかじゃないの!?
 そんなもの目印にしないで木にキズでもつければよかったじゃないの。
 そもそもこの森は“迷わずの森”って言われるぐらい誰も道に迷うはずがないのよ?」
 信じられないというリリムは一気にまくし立て、
目の前でひるむ少年に大きくため息をつく。
「わっ悪かったな!あのうっさいババアから離れることしか考えてなかったんだ。
 果物じゃそんなに腹の足しにもならないし、魔獣の血は美味しくないし。」
 半ばムキになって話す少年は語尾を下げながら最後におなかがすいたと小声で呟いた。
 
 
「あら、貴方もしかして吸血鬼の子供かしら?だったらあのお2人ね…。
 まったく。ここで迷うの見るの初めてよ。
 もう森を出るつもりだったし、着いて来なさい。」
 この奇怪な事件はこいつが原因か、と肩を落とすとくるりと背を向ける。
慌てたように呼び止めようとした少年に手招きをすると少年は素直に従った。
 
「悪い…。」
「そういうときはありがとうとか、ごめんなさいとかでしょ。まったく。」
 よほど疲れているのか、会ったときよりも元気の無い少年に
リリムは世話の焼けるヤツだともう一度息を吐く。
 
 
 もうすぐ森を抜けるという時になり、リリムはそういえばと思い出す。
森を抜け、空腹と疲れで若干いらだっている少年と別れるところまでくると
リリムはその背に声をかけた。
「そうだ。貴方の名前聞いてなかったわね。私はドゥリーミー=リリム=フローラ。
 まぁまだリリス=リリムだけど私を呼ぶ時はフローラじゃないと嫌だから。」
「俺は…ローキ=ウンディーネ=ロードクロサイト。
 よく親父たちにはクロとか呼ばれているけど…ババアの呼び方以外なら何でもいい。」
 じゃあな、と背中越しに手を振るロードクロサイトにフローラも軽く手を振った。
 
 
 
どうせ金輪際関わりあうことはないだろうというフローラの考えとは別に、
何百年にも渡って関わりあうことになるとはこの時は露ほども知らずにいたのであった。
fin