魔界人でも類を見ない特徴を持った一族。それが九尾一族だ。
成人になる頃に力があり外に眼を向けるものが男へ、
そして内に目を向けるものが女にと、性別がわかれる。
それまでは分かれていない不思議な種族。
9本の尾を持ち、皆踵の高い靴を履き、着物を着る。
妖術などに優れたものが多く、中でも金色の毛並みを持った金狐、
銀色の毛並みを持った銀狐はあらゆる面において秀でているという。
魔王軍2軍副将にいるハッコン=ミズクメ=タマモは現在いる2人の銀狐の片割れだ。
九尾特有の中性的な顔立ちに銀色の髪。
薄桃色の着物をまとい、歩くたびに靴に付いた鈴が軽やかに鳴る。
「おぉ、タマモ。少し紅葉には早いが…どうかしたたのかぇ?」
「ワカモ。変わりないかぇ?たんに時間ができたゆぇ早く来たのじゃが…。」
一軒の藁葺き屋根の少し大きな家に入ったタマモは縁側でくつろぐ姿に近づく。
問いかけてきたのはタマモと同じ銀狐であり、
瓜二つの顔をしたワカモ…タマモの双子の片割れだ。
「左様か。変わりのぅ…。先日まで女であったことかの?タマモはどうじゃ?」
「妾は意識しておらぬからのぅ…。そうじゃそうじゃ。
ワカモにこれをと思いもってきたのじゃが…。銀の月よりいただいた桜染めじゃ。」
今は男じゃというワカモにタマモは変わっていないと首を振る。
巻き物を広げ、早口に呪文を唱えるとサクラ色の着物が現れ、ワカモは眼を輝かせた。
「妾が貰ってもよいのか?」
「妾にはラベンダー染めの着物があるゆえよいよい。」
羨ましいのぅ、というワカモに着物を合わせるとタマモはてきぱきと飾りを決める。
「タマモは女になったこともないというのに妾よりも詳しいのぅ。羨ましい。」
「妾は気持ち的には常に中立じゃからの。そういえばコヨウはどこぞに?」
庭先の池に顔を映したワカモはさすがだといい、タマモの言葉に顔を上げる。
「見なかったかぇ?ふむ…。そのうち戻ってくるじゃろう。」
「そうじゃな。妾はちょっと九尾の姿になっておるゆえ、
コヨウが戻ってきたら教えておくれ。」
タマモは九本の尾を持つ狐に姿を変えると身体を伸ばし、背骨を鳴らす。
「心得た。そうじゃ。タマモ、少々毛が乱れておる。直してやろう。」
身体を伸ばし横になるタマモにワカモは笑うと櫛を手に持ち、毛並みを整える。
気持ちよさそうに耳を動かすタマモは何かの気配に顔を上げ、
垣根の下をくぐり出てきた金色の毛並みを眼に留める。
「そこは出入り口でないというのに。何度言ったら分かるのかぇ?」
「余に命令するなタマモ。そもそも家に帰るのに戸などくぐらなくてもよいだろう。」
「叔父上に申し付けるがよいかの?
貴方は金狐なのですから一族を代表としていただかねばならないのです。」
若草色の着物をした髪の長い若者…
コヨウをたしなめる2人は着物に付いた葉を払ってやる。
「とっ父さんには言うでない!分かった…。余も次期当主の身分じゃ。
当主のお二方に教えてもらわねばならないからのぅ。」
金色の髪に付いた枝を払うコヨウは顔をしかめ、
まだ九尾姿のタマモと呆れているワカモを見上げる。
「妾は当主ではない。ワカモが当主じゃ。」
「何を言うタマモ。主も銀狐。
金狐のコヨウがまだ幼いゆえに、銀狐が一族を束ねるというのが慣わし。
妾より頭のよい主がいないと妾が楽できん。」
「主からの手紙の内容物がことごとくそれなのはそれか。
妾も忙しいんじゃ少しは自分で処理せい。」
元の人型になるタマモにワカモはよろしくの、と笑う。
やれやれというタマモは扇子で口元を隠し仕方ないやつじゃと笑う。
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