そして三日月の晩。
タマモはお気に入りのラベンダー色の着物を着、
ワカモは桜色の着物をきてコヨウと共に一番良い席で紅葉狩りを楽しむ。
「今宵もはれてよかったのぅ。」
「この楓も例年通り美しい色に染まることよ。
 コヨウ、飲み物はもういらないのかぇ?」
 ふさふさとした9本の尾を揺らすワカモは、
2人の間に挟んだコヨウに何が飲みたいかと問う。
「余も同じものが飲みたいのだが…。」
 ふわりと湯気の立つ甘酒を飲むコヨウはタマモ達が持つ杯に目を向けるが、
 2人は笑うのみで甘酒しか注がない。
「コヨウはあと10年飲んではダメだの。尾が4本生えねばの。」
「まだ2本しか生えていない今は甘酒で十分じゃ。
 ガキはそれ飲んですぐ寝るがよい。」
「余も九尾族じゃ!尾の数など関係ないだろう。
 まったく最初から生えてくればよいものを…。タマモ!飲みすぎじゃ!」
 キーッ、と怒るコヨウはタマモから杯を奪おうとするが尾に阻まれ、手が届かない。
 
「妾がこれくらいで酔うわけないだろう。」
「…タマモは酔えば男口調になるゆえ分かるじゃろ…。これは酔っておる。」
 珍しい、とワカモが驚きタマモを見る。
その手にある一升瓶がほとんど減っていることに気が付き、冷や汗を流す。
「それおぬし1人で飲んだのかぇ?」
「そうじゃが?あの忌々しい蛇の分際で妾に意見するなど…。」
 思い出しただけでも腹立だしいといらいらとするタマモに、
ワカモはこれはやばいと半身引いた。
「もしやヒュドラの方が何かしたのか?」
「妾のことを見下しおって…。」
 酔っていても着物に気をつけているのかこぼしたりはしていない。
それでもぶつぶつと言う姿にコヨウも苦笑し、ワカモと場所を変わる。
「はいはい。あとでぐちは聞くゆえ、今宵は紅葉を見ようではないか。」
「それもそうじゃな。そうじゃ。紅葉の着物でも織ってもらおうかねぇ。」
 水でも飲んで落ち着け、とワカモに言われ、
杯に映る三日月を見たタマモはそれもそうじゃ、と9本の尾を揺らした。
 
 
「余も新しい着物がほしいぞ。
 タマモ、魔王城ならばよい織り鶴の者を知っておるだろぅ。紹介せい。」
 2人の振袖に眼を留めるコヨウは自分の振袖を見比べ口を尖らせる。
コヨウが着ている物も決して悪いものではなく、逆にとても上等なものだ。
それでもコヨウは羨ましいと言うとタマモは頬に手を当て考える。
「そうじゃなぁ…。それでは妾たちは紅葉に泉をあしらった物にし、
 コヨウには紅葉に三日月をあしらったものを頼むとするかの。」
「それはいい考えじゃ。妾の分も頼んでくれるのかぇ?
 今度タマモには何か御礼をしなければのぅ。」
 いつの間にかワカモは女性の姿でそれは名案じゃと言う。
「これ。銀狐が他の九尾と違って性別を確定した後も変えられるからとはいえ、
 そうころころとかえるでない。」
「妾は確定年齢時に女に確定したのじゃ。ならばこの姿が本来の姿であろう。
 のぅコヨウ。」
「余は金狐ゆえに確定せず自由に変えられる。
 ワカモの様にころころ変えるつもりはないがそれでも変えすぎじゃ。」
 たしなめるタマモにワカモは笑うとコヨウに同意を求めるが、
そちらからもたしなめられ、そうかの?、と首をかしげ空を見上げる。
それにつられ2人も顔を上げると上機嫌に尾を揺らした。