魔道師達の故郷と呼ばれるイギナリデッド国。
モクリアの近くにあり、人口はそう多くはなく、ほとんどが魔法を使うことの出来る魔道師だ。
その魔道師で成り立つこの国は数多くの魔道師を各国の派遣し、
治安維持や魔物討伐に役立てていた。
攻撃魔法に特化したものを黒魔道師。
回復などサポートに特化したものを白魔道師と区別し、
モクリア国にて認定された賢者と女王を中心に国を治めていた。
魔法が使えない人々のために開発された魔道具も歴代の賢者が生み出したものである。
モクリア国。
魔王らがすむヌリカ国に最も近くにありながらにして聖なる力によって
守られる賢者達の聖地。
各国の教会に神父を派遣する聖なる国。
人口は多くなく、世界各国の魔道師たちの中でも、
攻撃魔法と回復などのサポート魔法の両方が使える賢者・大魔道師を認定し、洗礼する唯一の国。
両国は協定を結び、自由に行き来できるように魔法陣が設けられていた。
賢者と呼ばれるのは現在3人。
2人がモクリアとイギナリデッドを支え、若い魔道師たちに指導している。
最後の1人は若くして才能に溢れ、成人する前に賢者の称号が与えられていた。
だが、めんどくさいといい、魔法陣を利用せずに両国を行き来するため常にどこにいるのかわからずにいた。
ただ、魔道師達はその賢者を探す気はない。
彼の者は家族に追放された根無し草だからだ。
イギナリデッド国国境付近に腰を下ろした女性はつまらなそうに空を見上げる。
頭をよぎる思い出にずきりと心を痛ませるが、どこか麻痺してしまったのか、
もうあまり感じない。
と、妙な気配に気がつき、魔物が自分を認識できないよう幻術の香りを纏わせたまま辺りを見回した。
「こんなところで実験?」
訝しげに気配がするほうへと足を進めると煙が見え、ますます困惑する。
ぎりぎり国境に入った森は薄暗く、あまりいい場所ではない。
何かが燃えて焦げ付いた臭いに顔をしかめ、袖で口を覆うと目を凝らしながら先へ進む。
「シィー」
「蛇?」
空気の抜けるような音がし、警戒すると何か大きなものが飛び掛ってきた。
思わず魔法で応戦するとそれはとびずさり、体を揺らしながら低く構える。
「蛇の魔物じゃないわね…。人間と蛇を使った非人道的な合成魔法…ってとこかしら?」
小さな子供ほどはある“蛇”は赤い目を女性に向け、
空気の抜ける独特の威嚇音を出し、小さな口に生える牙をむき出す。
「捕縛縄(グレイプニル)!」
魔法で編んだ縄を投げつけ動きを止めるとどうしたものかと近づいた。
ひとまずイギナリデッド国に連れ帰るか、と燻る木材に火をつけ青い粉を振りまく。
まだ暴れる少年を抱え、火に飛び込むと2人の老人が話しあう部屋の暖炉へと移動した。
「オウリアンダー。久しぶりに来たと思えばそんなところから…。」
「急だったのよ。じゃなきゃ来ないわ。」
呆れる男性は頭が痛い、と言いオウリアンダーは肩をすくめて見せる。
「その子は?」
「さぁ?国境近くの森で実験した結果みたいよ。」
突然景色が変わったことに驚き固まる少年を見ると眉をしかめ、
どういうことだと見上げる。
「知らないわよ。セス、引き剥がせるかしら?」
「我輩に聞かれても…。とりあえず書庫を見てこよう。
アルダ、有能なものたちを集めた方がよいのではないか?」
「そうじゃな…。お主のいうとおりじゃ。
ネティベル、可哀想じゃがその子を“鳥の檻”に入れ、縄を解いてあげなさい。」
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