新年だけは

 
 
 
「新年明けましておめでとう。」
 その声を合図に部屋一面に集まった者達が一様に頭を下げいっせいに新年の挨拶をする。
上座にいるのは現当主であるゴウと次期当主であり現四天王である半鬼のキル。
そして彼の母親シヴァルと鬼一族ではないが四天王長チューベローズの姿があった。
 
 ゴウの挨拶が終わると元来長々とした話が嫌いなこの師弟は簡単な挨拶を済ませ、祝杯を煽る。
当然キルは大人とは違い少量の御屠蘇だ。
乾杯の音頭が終わり、会場は宴会ムードへとなっていった。
 
 
「悪いね、キル。いつも招待してもらって。」
「いえ別に。魔王様は新年会など行いませんから仕方がないでしょう。」
 まぁそうなんだよねというと傍によってきた鬼女が注ぐ杯を傾けた。
彼がここにいるのは人間時代から欠かさず行ってきた新年を祝う宴会。
魔王城ではそれが50年にいちどしか行われないと知り、驚いていたローズを鬼一族の新年を祝う席に呼んだのがきっかけだ。
 あとは自分で入れるからと鬼女を下がらせローズは姿勢を崩す。
「師匠は一軍では新年会はしないのですか?」
「正月くらい別に名前でいいよ。あるよ。一応。
でもねぇ…いい奴らなんだけど酔いがまわると大変なんだよ。
どういうわけか元人間である僕のことを偉く慕ってくれているからさ。
いいよって言ってるのに次々と注いで来るから…。」
 だから疲れるんだよ。とローズはため息をついた。
一応キルのいる第2軍でも行われているという新年会。
孫を見るような不思議な軍の新年会はお年玉が出るという。もちろんキル宛に。
 
 
「ではローズ様。」
「正月くらい呼び捨てでいいって。」
「一応年上ですから…ローズさん、あれどうにかしてください。」
 ん?とローズが目を向けると一軍所属でライバル同士の鬼が2人意味のない争いをしていた。
「あぁ、あれか。いいんじゃないの?たまには決着つけさせても。」
「家が壊れます。」
「ゴウに頼めば?」
「当主様は現在泥酔中です。」
 と、示した先には赤鬼だったかなと思うほど顔を赤くし、上機嫌に歌う当主の姿。
やれやれと立ち上がったローズは2人の間に入ると無理やり引き離した。
鬼の力をもってしても開かれた差が縮まらないことにキルはやはりなんだかんだ変態ではあるが強いのだなと改めて感心した。
「喧嘩するなら…今度演習場かしきってあげるからさ、そこでやんなよ。わかった?」
 あ〜キル、畳後で弁償するねというと、まだ暴れる二人を思いっきり叩きつける。
畳にめり込むと見ていた外野はやんややんやと騒ぎ立てた。