異形の子〜銀月の勇者〜

 
 
 冬の雪に閉ざされた小さな村、フレッシュミントでは曽祖父が勇者だという子が生まれ、
外で産声を聞いた村人は歓喜の声が響いた。
だがそれもすぐにさめ、生まれた子供の開いた瞳にざわめく。
まだ薄い髪は銀色。
瞳は青に黄色で縁取られた不思議な色をしている。
そしてうっすらと左胸に模様のような痣があったのだ。
その姿に誰かが魔物だと言い始める。両親とも似ていないその色は人の持つ色ではない。
 
 生まれたその子供はいつも布で髪を隠し、
両親が一緒でない限り家からは出てはいけないと厳しく言われていた。
そして両親と共に散歩する時はいつも夕方。
歳の近い子はみんな家に帰っていない、子と両親だけの村。
 魔物が出るから本来ならば出歩かない夕暮れの中を、
2歳になった子供はおぼつかない足取りながらも母シュリーに手を引かれ歩く。
ふと、子供は花を見つけ傍にしゃがみこむ。
「あら、どうしたの?」
「おはな、かわいいね。」
 あ、あっちもあると駆け寄りしゃがんだ。
だが目の前にさした影に子供は首をかしげ見上げる。
町から帰った同じ村の者が歩く長い影が子供にかかっていたのだ。
 
「シュリーさん、なんだってまだこんな忌み児を育てているんだい。
 みてんじゃないよ!」
 慌てて駆け寄る母に年配の女性は言うと邪魔だよと、足元にいた子供をはたき倒す。
「子供になにするんです!大丈夫?」
「だいじょうぶ。…ごめんなさい。」
 倒れた拍子に足を擦り剥き、擦り傷が出来ていたが子供は大丈夫というと自分を叩いた女性に謝る。
この村の小さい子にしては穏やかな性格の子は叩かれても自分が悪いことをしたと感じ、
自然にごめんなさいとよく言っていた。
たとえそれが自分にとってまったく無実であったとしても、
はたかれるというのは悪いことをしたからなのだと、そう認識しているようだ。
 
 
「まったく気味が悪いわね…。人の振りしてないでさっさと本性出したらどうだい。」
 魔物の仔め、というと女性はその場を立ち去った。
クラリス、行きましょうと後ろから来た女性に言うと足早に立ち去ってしまった。
先に言っていてというと、その女性は大丈夫?といって子供の手に触れる。
その途端、鋭い音がし目も眩むような光が走る。
光は一瞬で消えたが、子供の腕に火傷のような跡が残されてしまった。
驚いた女性が手を引くとシュリーはわが子を抱きかかえ、その場を走り去ってしまった。
 顔色の悪くなった子のぐったりとした手足が揺れる。
クラリスは何が起きたのかわからず、その親子が立ち去るのを呆然と見つめていた。
それから3日間、シュリーはつきっきりで高熱に苦しむ子の看病をし、
心身ともに疲弊していった。
それでなくともこの子供は体調を崩しやすく、普通の子よりも病気や風邪で寝込んでいる時間が長い。うなされる子に子守唄を聞かせると安心したように子供は眠った。
 
 
 体調がよくなったその子供は寝込んでいる間、シュリーが取ってきた花の苗を前に歌っていた。その軽やかな幼い声に父がやってきた。
「まだおはなさかない?」
「まだ小さい苗だからなぁ…。そんなに毎日見つめていたら恥ずかしがって出てこないぞ?」
 からかうように父、ホスターが言うとまだ幼い息子はう〜んと、珍しく考え込む。
早く花が見たいけどずっと見てたら咲かない。
でも咲く時を見たい。
そう葛藤しているようだ。
「大丈夫。そんなにすぐ咲かないから。さて、畑に行こうか。」
 さぁ、おいでといわれ喜んで父の元へいく。
畑仕事に使うものを入れたかごへと入るとホスターは重くなったなと笑いながら背負う。
笑い声が聞こえ、ホスターは畑と向かった。
 重くなったと、そういってはいるが実際はほとんど重くはなっていない。
背が伸びるのが遅いのと、今年不作だったのを知っているのかあまり食べないのが原因だ。
たくさん作ろうとしてもあまりおなか減ってないと言われ、
本当に食べないなら余分を作る余裕がないと、少なめにしている。
いつもそれでおなかいっぱい、という息子が本当に食が細いのか、
それとも幼いながらに自分達を気遣っているのか、いつも笑顔の息子の心が分からない。