一通り終わり、夕暮れの中手を繋いで家に帰ると窓辺に揺れる物に眼を見張る。
朝、小さかった苗は美しい純白の花を咲かせていたのだ。
「あ!さいた!!おとうさん!!みてさいたよ!」
 花を前に指でつつく子供は父を振り返る。
そこには信じられない物を見るような、はじめてみる父の表情があった。
自分が何かをしてしまったのかと、子供はわけもわからず、
ごめんなさいといいきっとこのおはながいけないんだと鉢を手に自分の部屋へと向かう。
 外から板を打ち付けられた窓からは僅かな光しか入らず、
闇の中、僅かな光で白く輝く花を前にうずくまっていた。
自分が何をしてしまったのか、必死に考えるが分からない。
 
 それより無性に悲しかった。
 大好きなお父さんの自分を見る眼が怖くて、
そしてそんな眼をさせてしまった自分が嫌いで。
頭を抱え、無意識にかきむしる。
嗚咽をかみ殺しているうちにいつの間にか眠ってしまった。
 
 
 鉢を抱えて最近与えた自分の部屋へといってしまった、
息子の背を見つめていたホスターは信じられない、と近くにあった椅子へ腰掛けた。
確かにあの花…ユーチャリスという水仙に似た花は朝、まだ小さな芽だった。
そしてもうすぐ寒くなるこの季節では咲くはずがない。
だが、先ほど見た物は大きくなり、花を咲かせていた。
小さな村だが魔法を使えるものは幾人かいる。
だが、こうして花を咲かせるなど聞いたこともない。
世界中探せばあるかもしれないが、あんなに小さい子が使えるはずないと、混乱していた。
ひとまず部屋に戻った息子の自分を見たときの怯えたような顔を思い出し、
部屋へと向かった。
 
 
 魔物だといい続ける仲間である村人達が外から打ちつけ、ふさがれた窓しかなく、
日中でも暗い部屋にろうそくを手に中へと入る。
寝るときはいつも家族揃って寝ているため、
この部屋は忌み児を普段入れておく言わば部屋という名の隔離した牢屋だ。
自分達が町へ行く時はここにいるんだよといい、この部屋に入れて外から鍵を閉めている。
以前、窓の隙間から毒蛇が入れられたことがあり、
あわやと言うところで事なき終えたこともあった。
その小さな部屋の隅に体を丸めるようにしてうずくまっていた。
元々小さい体がさらに小さく見え、ホスターは手を伸ばし、
バンダナから僅かに跳ねてはみ出ている髪を撫でる。
柔らかい感触に子供特有のあたたかい体温が指から伝わり、小さな寝息が聞こえた。
そっと抱き上げると膝がぬれていることに気がつき、泣きはらした目元を拭ってやる。
自分達が外に出さないせいか、病的なまでに白い肌は心なしか顔色が悪い。
手元を見れば血がついており、慌てて髪を掻き分けると
僅かにかきむしったあとがのこされていた。