やがてホスターが落ち着き、
チューベローズが眠るとほっとしたかのように村長らはホスターたちを家まで送った。
吟遊詩人もできればいろいろな話が聞きたいと家にとまることになり、
クラリスも話があるとホスターの家へいく。
着替えさせ、眠ったチューベローズをしっかりと抱きかかえたシュリーはクラリスを見る。
その前に確認させてと、クラリスは水盆を取り出した。
チューベローズの髪をすこし切り取るとそこに浮かせ魔力をこめる。
すると水面が白く発光し、そこにあった紋章が浮かび上がった。
4つ並んだ紋章と離れた場所にある別の2つの紋章。
そのうち一つが光り輝く。
「これは光属性の紋章。私は召喚術師だから闇属性に近い冥属性。
まだ魔力の弱いこの子には毒になってしまう光を食らう闇よ。
それで問題はね…この基本属性であるつの紋章。もし私の考えているとおりなら…。」
そういいつつ水面を見つめるクラリスに一体どういうことなのかと、シュリーも覗き込んだ。
「これは…火の紋章。これは風の紋章…。やっぱりそうだわ…。」
つの紋章ともが輝き光るのをクラリスと吟遊詩人は驚いたように見つめた。
「どういうことなの?」
「シュリーさん。人は絶対、基本属性を2つしかもてないのです。
そしてそれは必ず相乗効果のある、合成が出来るものでなくてはなりません。」
魔法といわれてもいまいちピンとこない人は顔を見合わせる。
「わたしは水属性ですが、一応一通りの属性呪文は唱えられます。
しかし、やはり火属性の呪文は苦手です。その魔法を練ろうとすると水の属性が邪魔をし、
反発したエネルギーが生まれるのです。」
「つまりはね、相反する属性を持つことは常に体の中でそれが喧嘩してしまうのよ。
だから自然と2つ持っている場合は、たとえ片方が片方の相性の悪い物と相性が良くても残りのつは旨く扱えないのよ。
そりゃあ大魔導師なんかはそれを自分の中で調節してそれぞれの究極魔法以外は扱うことも出来る。
でもそれには何十年という訓練が必要よ。」
2人の説明に徐々にホスター達もこの水面に浮かぶ4つの紋章の意味に気づく。
「そう。チューベローズはその4つの属性全てを持っているのよ。
それも危うい均衡で。私と先生の意見は同じ。きっとその影響で、両親とは…
いえ人とまったく違うこの髪の色と瞳を持ってしまったのよ。」
「銀色の髪というのは確かに少数ながらいますが…
青みがかった銀色というのはみた事がありません。」
光の属性と勇者の持つ性、慈愛によってそのバランスは保っているようですが、
吟遊詩人は言う。
バランスを崩せば何が起きるかわからないと。
小さく寝息を立てる小さな勇者は何も知らず母親の腕の中やさしい夢を見ていた。
冬の晴れ日が続き、吟遊詩人が村から出るころ、
チューベローズはスープから柔らかいものを食べるまでに回復した。
目覚めてから知ったのは自分が選ばれし勇者ということ。
そして勇者は魔王を倒すということ。
そのためには強くならなくてはならないということ…。
チューベローズはそれを聞くと頑張ると頷き、やはり笑った。
枯れていたユーチャリスの鉢と隣に増えたチューベローズの鉢からは共に芽が土から顔を出していた。
後に後世に語り継がれ、歴代最高と評された銀月の勇者が同時に、
人の大敵である魔王軍最強の戦士になるのはもう少し後のお話。
〜fin
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