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 そこにはシュリーを安心させるため、 
凍傷のための薬を作る僧侶のセングルーという女性や吟遊詩人たちが待っていた。 
 抱きかかえられた銀色の髪を持つ子供に吟遊詩人もはじめてみるのか驚くが、 
さらに印を持つこと、それが淡く光っていることに驚く。 
 シュリーは青白く蝋人形のようになってしまった我が子の名前を叫ぶ。 
壊れ物のように抱きかかえるホスターに駆け寄るのをホスターが制し、囲炉裏の傍に座る。 
  
「恐らくこの神の印がこの子の命を繋ぎとめているのでしょう。ですが… 
 点滅しているということはあと少し遅ければ…最悪の事態になっていたかもしれないですね。」 
 吟遊詩人の言うととおり、瞬きが見つけたときよりも遅くなっていることに気づき、 
少しでも暖かく、と自分の服を肌蹴け抱きしめる。 
自分の言いつけを守り最後に見た場所と寸分たがわない場所にいたチューベローズに謝りたくて必死だった。 
おにぎりだってきっと自分の分と、そうとっておいてくれたのだろうと優しすぎる子の魂を体にとどめるように抱きしめた。 
  
「ホスター、気持ちは分かるわ。さぁ。その子を。」 
 そういい、クラリスは幾重にも布を巻いた手を伸ばす。 
警戒するように見つめるホスターにクラリスは悲しげな顔をした。 
彼女は初めてチューベローズとであった日、この村にやってきた召喚術士なのだ。 
「さっき、召喚術の先生に術で連絡をして聞いたらその子の髪の色も瞳の色も、 
 理由がわかったわ。私は直接触れることが出来ないから。」 
 さぁ、といわれホスターはチューベローズを渡すとクラリスは手足からぬるい湯をかけ、 
 ゆっくりと湯に体を入れていく。 
  
ぬるい湯を保つため囲炉裏に火の魔法を使い細かく調節する。 
元々細く小さい体はさらに痩せ細り、 
骨と筋が浮き出てまだ子供だということをその場にいた村人達に知らしめた。 
あの白い肌は湯で溶けてしまうのではないかと思うほど白く冷たい。 
 神の印は徐々に点滅する間隔を狭めるが、ほっとする大人たちをあざ笑うようにすぐに間隔を広め光を弱める。 
  
 か細い息が途切れるたびにホスターは冷たい唇に息を吹き込むが良くなる様子はない。 
  
  
 やがて、懸命なクラリスやセングルーの治癒呪文もむなしく、 
印は見つけたとき以上に弱弱しく瞬き、僅かに聞こえていた鼓動が遠くなる。 
かろうじて印のお陰で若干回復していた体温も冷たく、ぬるい湯を冷やしていった。 
手を握り、縋るように声をかけホスターは死なないでくれと祈る。 
  
それしかなかった。 
  
「チューベローズ、お父さんだよ。ごめんな…遅くなって。退屈だっだろ。 
 さぁ、お父さんと帰ろう。お母さんのいるおうちに帰ろう。」 
 途端に神の印が眩い光を放ち、部屋を明るく照らす。 
それに目を細め、セングルーは信じられないと呟く。 
「この光は…治癒系統の最上級回復呪文!こんな子供が…。」 
 光の洪水は一度チューベローズから離れるとそのままチューベローズの体へと戻った。 
その光の洪水からは柔らかな歌が聞こえ、目を見張る。 
光がおさまり、歌が途絶えると閉じていたまぶたがかすかに震え、ゆっくりと眼を開ける。 
何度か瞬き、完全に目を開くとシュリーとホスターは身を乗り出した。 
「チューベローズ!!お母さん、わかる?」 
「チューベローズ、ごめんな…ほんとうにごめんな。」 
 すぐ傍で涙を流す両親を見つけチューベローズはどうしたの?という。 
あ、というとごめんなさいと謝った。 
「おとうさんのぶんまですこしたべちゃった。おとうさんおなかすいてない?」 
 手を伸ばそうとし、いう事を聞かない体にあれ?という。 
その手をとり、大丈夫だというとホスターはすまなかったと繰り返す。 
湯から抱き上げるとまだ冷たい体を抱きしめ、顔をうずめる。 
チューベローズは驚いたように目をしばたかせるが、頬のこけた顔でにっこりと微笑んだ。 
  
  
  
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