村の男達は急いで準備をするとホスターに案内され森へと入った。
だが似たような大きな木が多くあり、分からない。
混乱した頭で必死に思い出そうとするが雪景色に変わってしまった森はまったく別物に見えた。
ふと、顔を上げると木に引っかかり、風にはためく布が目に入った。
別れ際も被っていた我が子のバンダナ。
 笑顔を思い出し、一週間も経ったんだと頭を振ると大きな木と探す。
だが、葉の落ちた木はいまや雪に覆われ、三分の一は雪下だ。
 
 ふと、遠く見える野鼠が何かを抱えていたが人間に驚き白いものを落としていった。
なんだろうかと、ホスターが拾うと半分だけになり、
冷えて凍ったおにぎりが雪に埋もれるようにして落ちていた。
元々食が細いとはいえ、何故これがこんな大きさで落ちているのかと辺りを見回すが答えはない。
深々と降る雪は徐々に落ち着いてきたが、森は足跡がなければ分からないほど一面が白い。
 
 ふと、雪に混じり花びらが風に乗ってやってきた。
「…梅?」
 風上へ向かうと梅の花と白いこぶしの花が雪の上に咲いている。
木からは最後の花がくるくると落ち、地面に咲く。
その落ちた場所を見つめ、そうだここであの子はじっと動かず自分を見送って…と思い出した。
 
 ここで待っているんだぞと、いうと笑顔でうんと答えていたのが幻のように現れ消える。
じっと動かず、手を振って笑顔で見送っていた姿を…。
落ちたばかりの花はあっという間に茶色く枯れた。
まさかここにいるはずないと、そう思いながら駆けつけてきた男達とこぶしの根元の雪を掻き分ける。
分厚く積もった雪で盛り上がった根は見えない。
 
 
 地面が見えるほどに掘るとスミレの花が色を残したまま枯れていた。
ふと、冷たくなった指が雪ではない感触を捉えた。
小さな…冷たく硬くなった白い手…。
「チューベローズ!!!」
 かじかんだ指を忘れ、無我夢中で穴を広げると震える手で真っ青になった我が子の顔に触れる。
 髪を撫でると、去り際に撫でた感触と同じ柔らかい髪と、
まったく違う冷たい体温にそっと抱き上げた。
ぐったりとした体は冷たく、重くないと思っていたはずなのに腕にずっしりとくる重みにホスターは抱きしめ、涙を流していた。
僅かに微笑んでいるよう見える子の顔は眠っているだけにしか見えない。
 
「なんていうことだ…。勇者が…。」
「勇者を死なせてしまった。」
 男達は小さな子供を死なせてしまったことでなく、勇者を死なせてしまったことに呟く。
だがホスターは自分の犯した罪と息子の死に涙を流していた。
初めて抱きしめた子の体はあの時、最初で最後に背負った背から感じた温かみはない。
 ふと、小さな体をかき抱いていたホスターは左胸に僅かな温かみを感じ、
ぐったりとしたチューベローズを見る。
首元をはだけ、あの痣を見ると淡くゆっくりと点滅をしていた。
慌てて胸に耳を当てると非常にゆっくりだが鼓動が聞こえ、呆然とする。
すぐに凍った服を脱がせ、念のためにと持ってきた毛布に包むと生きていると、
落胆していた仲間達に声をかけた。
「なに!?なぜ…。」
「わからない…。けど神の印が…チューベローズの痣が淡く光っている。」
 早くあたたかいところに、とホスターに言われ村人達は村長の家へと戻った。