2日前から降った大雪に吟遊詩人がやってきた。
「すみません。町から来たんですが…道に迷ってしまいました。
こんな大雪ですからすぐには出られそうにないのですが…。」
「いえ、いいんですよ。そうですか。町から…。」
村長の家に集まった村人は青年と町の話をしていた。
そこへホスターとシュリーもやってくる。
忌み児のことはシュリーが眼を覚ます前にホスター自身が村人に伝えていたため、
化け物がいなくなって良かったと村人はほっと息を吐き、
村人達の記憶からは早くも薄れつつあった。
「そうだ。おせわになるんですから一曲いかがでしょう?勇者にまつわる古い古い物語です。」
へぇ〜是非とも聞きたいというと、
誰かがそういえばポウェルズのところの祖父も勇者だったんだろという。
ホスターがそうだけど、と答えると吟遊詩人の青年はそれはすばらしいですね、
と笑顔になり、古い神話のような物語を語る。
何故世界が3つに別れ、魔物が人間の世界を襲うようになったのか。
そして天の神は魔王に対抗するため選ばれし子を勇者とした。
そう語る。
「印つけられしもの、彼の者こそが魔王に対抗しうる唯一の人。
光を操り、闇を照らす選ばれし勇者。彼の者、慈愛にみち、人を疑わなし。
人を愛し、命を愛すもの。彼の者、歌えばその声に、小鳥よりて花が咲く。
神は選ばれし子は持ち生まれる。左胸に踊る勇気の炎と自由の翼の神の印を。
生まれながらに痣と命の歌声を。
彼の者、悪しき魔物との戦いにて人を助ける唯一の希望なり。」
最後にそう締めくくると、やや酒の入った村人は拍手を送った。
その中でホスターとシュリーだけは耳を疑うように青ざめた。
命の歌声。人を疑うことのない…。痣。
「とはいえ、実際には印を持っていなくとも神の神殿にて神託を請い、
天から印をもらう者もいるため定かではありません。
印自体は大きな町などに行けば書物で見られるんですけどね。」
笑う吟遊詩人にシュリーは震える手で板に墨で我が子の、左胸に刻まれていた痣を描く。
傍にいた村人もなんだ?というように見たが、シュリーの絵に青ざめる。
「おい…まさか…。」
震える声に村人はどうしたと振り返る。
シュリーの手から板を取った男がそれを掲げると吟遊詩人はあぁ、という。
「やはりポウェルズさんの祖父の方の記録が残っていたんですね。それが神の印です。」
やや浮かれていた村人だったが、その言葉に目を見張る。
「ホスター!あのバケ…チューベローズはどこに!?」
初めて忌み児の名を口にした男はホスターの血の気を失った顔を見る。
何事かと、吟遊詩人も気がつき縋るようなまなざしのホスターを見た。
「町を出た時…銀色の髪をした子供を見ませんでしたか?」
「銀色の髪?いえ、そんな子供がきたらすぐに耳に入りますが…
一週間前から昨日まで町にいましたが聞いていませんよ。」
銀色、と聞いてすぐに噂になるでしょうし、と吟遊詩人は首を振った。
魔物が頻繁に出るお陰で貧しいこの時代。
子を捨てるのは珍しくなかったが、吟遊詩人はこの親もかと思いつつ見ないと繰り返す。
ホスターは急いで戸を開け、外を見る。
外は雪に閉ざされ、音はない。
刻一刻と夕暮れが迫っているのが分かる程度だ。
この雪は何時から降っていた。
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