村に帰ったホスターは寝込んでいたシュリーの看病をしつつ子を思い出す。
きっとそのうち自分を捜して森の中を歩き、
運がよければ誰かに拾われているかもしれないと、忘れるように頭を振った。
幼いながらに賢い子だから自分が捨てられたということに気がつくだろうと。
翌日、ようやく眼を覚ましたシュリーはぼんやりと天井を見つめていた。
「大丈夫か?ずっと眠っていたんだぞ?」
「えぇ…。あの子が歌って…花が咲いて驚いただけ…。あの子はどこ?」
そう呟くように言われ、ホスターは部屋で遊んでいると答えた。
元からそんなに体が強い方でないシュリーはやはり心身ともに疲れていたらしい。
わが子が歌うにつれ花が咲いていくのが信じられなかったのだ。
安心して寝てなさいと、ホスターは言うと眠る妻の顔をそっと撫でた。今、子供のことを言うわけに行かない。言えば再び失神してしまうだろう。
明日、落ち着いていたら話そうと、ホスターは部屋を後にした。
誰もいない小さな部屋の戸を開き、見渡す。
あの白い花がまだ枯れずに咲き誇っていた。
せめてこの花は枯れるまで見えるところにおいておこうと、
リビングに置くと子供のものを箱にしまう。
しまってみて気がつくのはほとんど物がないということだけ。
子供はあまり物を欲しがらなかったし、その余裕はなかった。
軽い箱を物置に入れると小さな木の箱を目に入れた。
なんのと思い、手に取るとまだ真新しい。
ふと、今日は何日かと思い出し、手が震え、箱を取り落とす。
今日は子供の4歳の誕生日だった。
中から転がり出たのは渡さなかった誕生日プレゼント。
花が好きな子供と同じ名前の球根。
翌日、落ち着いたシュリーに子供のことを告げるとやはりショックで言葉を失うが、やがて俯き、そうよねと呟いた。
「あの森だってそう広くないわ。きっと今頃町の近くに出て新しいところで暮らしているわ。」
そういい、しばらくホスターに縋りつき涙を流していた。
それから3日後、急に元気のなくなったユーチャリスの花は白い雪が降るのと入れ替わるように枯れてしまった。
ホスターが目を離したほんの数刻の間に…。
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