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 すっかり葉が落ちた木の下で待っている間なにをしていようかと考える。 
最近覚えた数字で葉の数を数えたりするが30以上が分からない。 
することもなく、無意識に歌っていた。 
すると花の香りがし、しまったとばかりに口に手を当てる。 
  
 自分の周りでは葉の落ちた低い木には梅の花が。 
   足元の草にはスミレの花が。 
      大きな木はこぶしの花が。 
それぞれ咲きかけていた。 
  
 歌うと花が咲くと、心の中だけで歌うことにした。 
やがて日が傾き、辺りが薄暗くなるとおなかすいたなと、包みを開ける。 
いつも自分が食べるにしては大きめなおにぎりに首を傾げるが、 
一口二口と食べ後はお父さんの分とそれをしまった。 
 喉が渇いたなと思うが、ここで待ってなさいという大好きなお父さんの言葉を思い出し、踏みとどまる。 
  
そして夜がやってきた。 
  
 一応、子供がいたところは背後にある木の根が出ているため、 
そのくぼんだところに身を寄せる。 
獣の遠吠えや獣とは違う唸り声を聞き、木の根に一体化するようにぴったりと体を縮め、やがて子供は眠った。 
  
  
 朝になり、お父さんごめんなさいというとおにぎりを一口二口と食べ、再びしまう。 
どうしたんだろうと思うが、迎えに来るといっていたからには必ず来ると信じ、 
その日もその場を動かなかった。 
 ふと、数日前の父の言葉を思い出す。 
空が真っ暗になった数を指折り数えれば、今日は自分の誕生日と気がついた。 
 お父さん、きっと驚かせようとしているに違いないと笑い、 
お母さんがきっと大好きなご飯を作って待っていてくれると、 
うきうきしながら大好きな父を待ち続けた。 
 その晩は冷たい雨が降り、寒さに体を震わす。 
  
 そのまま朝になり、目の前に咲くスミレを見つめた。 
きっと町で何かあったんだと、父のみを案じ濡れたまま冷たい風に震えつつおにぎりをかじる。 
だが、一口食べたところで飲み込めず吐き出してしまった。 
酷く体が熱い。 
ぼんやりとする頭のまま手からおにぎりが滑り落ち、転々と転がっていく。 
 目の前が暗く点滅し、まだ来ないのかなと考えていた。 
そのまま木の根にもたれることも忘れ、横になる。 
その晩は咳が酷く、眠れないまま夜が明けた。 
  
 再び降った雨に小さな体からはどんどん体力が奪われていく。 
咳き込めば泥を飲んでしまい激しくむせこむ。 
それを繰り返しやがて咳き込む体力が尽きた。 
その晩は月が顔を出したが、翌日はどんよりとした空がやがて暗くなるのを横目で見つめ、 
ついに六日目の朝を迎えた。 
 体を起こすことが出来ず、その場で仰向けになり空を見上げた。 
ぱりぱりと薄い氷が割れるような音が聞こえる。 
咳をし続けたせいで喉が痛い。 
それでもまた無意識のうちにか細い声で子守唄を口ずさんでいた。 
だが、花は咲かず頭が痛いときに歌ったらいいんだと、ぼんやりおもう。 
 自分は寝ているはずなのにぐらぐらと地面が揺れ、目の前がやはり揺れる。 
風が吹き、いつも頭に巻いていた布が空へと消えていく。 
手を伸ばすがつかめず、代わりに別の物に触れた。
  
  
 ふわりふわりと、枝の隙間からこぼれてくる白く冷たい綿のような雪に、 
純粋に綺麗だなと見上げていた。 
冷たくて気持ちがいいと思っているうちに雪は空を埋め尽くす。 
視界がだんだんと狭まり、酷く眠くてしょうがなかった。 
やがて伸ばした手が落ち、 
  
 子供は眠った。
 
  
  
  
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