兄妹の決別

 
 
 不意にかけられた言葉にローズは目をしばたかせた。
「だから…お兄ちゃん…。ずっとここにいてよ…。」
「いや…そういうわけにはいかないから。ね、わかるでしょ?」
 裾を握られ、ローズは首をかしげると苦笑するように答える。
これでよし、と束ねた花を墓石に添えると手を合わせ、しばし沈黙が流れた。
「あ、そうだ。お兄ちゃん。お兄ちゃんの身魂の木、みつけたんだ。」
「僕の?だって無いの気がついたのは僕が10歳になってからだよ?
 もともと植えるつもりだった苗は踏み潰されて燃やされたから…
 あぁ、ユーは気にしないでいいよ。僕もそんなに気にしてないから。
 無いはずなんだけどなぁ…。」
 うぅ〜んと考え込むローズにユーチャリスは顔色を変えるが、
すぐにこっちと案内をする。
そこは森の奥深く、滾々と湧き水が出る泉の源だった。
草木が生い茂り、茨が行く手をふさぐそこに細い弱弱しい木が上へと伸びている。
「これ?」
「うん。お父さんが言ってたの。お兄ちゃんが生まれた年に湧き出たんだって。
 そのとき芽を出したのがこの木らしいの。でも…何の木がわからないって。」
 わかる?と問うユーチャリスは悲しげな兄に気がつき、その木を見つめる。
「ユーも知ってる木だよ。身魂の木になんかならない花木だ。
 それも本当に100年あるならこんな小さくて弱弱しいはずが無い。
 薔薇の親戚ってことにはなっているけど薔薇じゃあない。仲間はずれだ。」
 一生花は咲かないだろうけど、とローズはそっと手で撫でる。
まじまじと見つめていたユーチャリスははっとしたように気がついた。
「ごっごめんお兄ちゃん…。形が違うからわからなかった…。そうだったんだ。
 でも…お兄ちゃん、ちゃんとあったでしょ?」
「…そうだね。さてと。早くもどろう。」
 僕の手を握って、と促すローズにユーチャリスは握ると光に包まれ、
そのまま家へと光速移動した。
 
 
 膝に頭を乗せたユーチャリスの頭をなで、ローズは月を見上げていた。
無意識なのか、小さな声で子守唄を歌うローズの足元には小さな花が咲き、
風に揺れている。
「おう、まだおきてたのか。ユーチャリス、ちゃんと寝台で寝ないと。」
「あ、大丈夫なのに…。」
 やってきたソーズマンはユーチャリスを起こすと寝台へと行く。
腕を疲れたままのローズもそれに続いて行く。
「ごめん…お兄ちゃん。一緒に寝よう。」
「はいはい。ほら、早く寝ないと。」
 湯浴みを終え、そのままつかまったローズはユーチャリスにせがまれ、
添い寝することになっていた。
横になると髪を撫で、ローズも目を閉じる。
寄り添うように眠るローズたち兄妹をソーズマンは、
微笑ましいものを見るよう目を細めた。
横になるソーズマンだが、気配に気がつき、振り返る。
 
「どうしたローズ。眠れないのか?」
「眠たいのは山々なんだけど…。そっちいってもいい?」
 目が合う親友の頼みにいいけど、と場所を開けるとローズは静かに、
闇の移動方法でユーチャリスの隣からソーズマンの隣へと瞬間移動した。
「昔はユーチャリスの隣だったらぐっすり眠ってたじゃないか。どうかしたのか?」
 うずくまるローズに首をかしげるソーズマンは銀色の髪を撫で、
小さい子に問うように声をかけた。
「ごめん…。人の感情に敏感だから…ユーの隣は眠れないんだ。」
 僕には耐えられない、と声を絞るローズにソーズマンは思い出すと頭を軽く叩く。
「敏感って…そうか。お前は本来臆病だからな。
 俺かプリーストのそばじゃないと熟睡できなかったな…。
 今は大丈夫なのか?」
「今は大丈夫。だめなときは誰か呼んでそんなこと気にする間もないから。
 それにこんな強い感情はあっちではないから。」
 小さく丸まった親友を軽く抱き寄せるとその妹…妻を見た。
「ごめんな…。ちゃんと何があったか話したんだが…。わかってる。
 一人旅中にまた何かあったんだろう?お前はよく頑張ってるよ。」
「ソーズマンはあったかいな…。それにいつも心が澄んでる。僕とは大違いだ。」
 うとうととようやく眠りにつき始めたローズは親友にしがみつくとすやすやと眠る。
「お前ほど心の綺麗な人間なんていないよ。まぁ多少変態でもな。」
 昔と変わらない寝顔にまったく、とため息をつくとソーズマンも眠りについた。