チャーリー、ソーズマン、ユーチャリス、ローズは同じ部屋で今後について話していた。
「チャーリーは光魔法全部習得してないんだよなぁ…。
 魔王は闇属性だから…使えないと対等に戦えないかも…。
 鎌攻撃はかなりきつかったし。」
「やっぱり魔法のほうが…。おじいちゃん。必ず魔王を僕が倒します!」
 昔のたびの話を聞いていたチャーリーは魔王のことを少しだけなら、
と聞き考え込む。
「お兄ちゃんも一緒に行ければいいのに…。」
「ユー、それはできないって知ってるだろう?大体、手を貸す気も無いよ。
 僕はもう人間じゃないんだから。」
 だめ?と問うユーチャリスにローズはため息混じりにできないと答える。
 
「そういえば魔王と戦ったとき、どんな感じだったんですか?」
「戦ったときねぇ…。必死に戦ってたし…
 途中からはみんなをかばうのですら難しくなって、
 大変だったとしか覚えてないなぁ。」
 そもそも手合わせ中なんて調子に乗った人に手傷を負わされているし、
最初の戦いなんて覚えてないんだけど、と内心ため息をつく。
「でもお兄ちゃんほぼ互角に戦ってたんでしょ?なら次は絶対…。」
「無理だよ。それにいっただろう?僕はもう人間のためには戦わない。
 それに魔王と死闘して何が得られるの?
 ソーズマンから聞いただろう?」
 どうしてもチャーリーと戦わせたくないのかすがりつくユーチャリスに、
ローズは困った表情をとった。
 
 
 俯いたユーチャリスを撫でながら聞こえるか聞こえないかというほど小声で何か呟く。
「まぁ仕方ないっちゃ仕方ないんだよな。お前の場合はいろいろあったからな…。」
「でっでも…。それでも勇者が人間を裏切るなんて…。
 大叔父さん。何があったんですか!?」
 ユーチャリスをどこか悲しげな目で見つめるローズにソーズマンは言う。
絶対に話してくれない伝説の勇者のその軌跡。
数々の伝説を残しておいてなぜ魔王を倒せず魔物になり、
魔王と戦うわけでもなく暮らしているのか。
「違うんだチャーリー。ローズが人間をはじめに裏切ったんじゃなくてみんなが…。」
 違うんだと、そう繰り返すソーズマンをローズが手を上げ、さえぎった。
「違わないよソーズマン。僕が最初に裏切ったんだから。全て…。
 ユーが昔、僕のことでいじめられていたことも。
 優しいユーが僕を疎んだことも。」
 ローズの自虐的な笑みにソーズマンは顔色を変えた。
「どうしたんだよローズ!!それは…闇の水晶で見たことじゃないか!!」
「…見た…の?」
 怒鳴るソーズマンにローズは鼻で笑う。
その様子にチャーリーはぞっとするものを感じた。
濃い闇の気配にクラリスも自然と身構える。
「だってそうじゃないか。本心では今だってそうなんだろう?
 現に闇の水晶がこうしているだけでも人の心を…。」
 
 
 パシッ、と歯切れのいい音がし、ローズは赤くなった頬に手を当てた。
叩いたその姿にソーズマンは目を見張り、チャーリーは驚いたように見つめる。
クラリスだけは複雑そうな顔でそれを見つめていた。
「ほら…やっぱり。」
「お兄ちゃん…最低よ…。最低!!人の心を見るなんて…。
 そうよ!お兄ちゃんがそんな姿だからいっつもいっつもからかわれて…。
 比べられて…。私はお兄ちゃんみたいな人と違う化け物なんかじゃないのに!!!」
 悲しげな顔のローズの呟きをかき消すようにユーチャリスの怒鳴り声が重なった。
ローズの叩かれそむけた顔はうつむき、表情はまったく見えない。
「ユーチャリス…お前…。」
「おにいちゃんがなかなか魔王を倒しにいかないからって…みんなに責められて…。
 なのになのに…。どうして魔王を倒さないのよ…。
 どうしてお兄ちゃんが死んだものと諦めていた時に現れたのよ!!
 どうしてどうして…生きてたのよ…。
 なんでおにいちゃんが…私のお兄ちゃんなのよ…。望んでないのに…。
 忘れたいのに…。お兄ちゃんなんか…大嫌い…。」
 うつむくユーチャリスはローズの胸を軽く叩き、うな垂れる。
ふと、胸元を握り締めていたユーチャリスは腕に落ちた雫にはっとわれに返った。
「今…私なんて…。お兄ちゃんになんて…。」
「僕は生まれたときからの化け物だ。化け物として疎まれ、勇者として望まれ、
 人として踏みにじられ弄ばれた人に似た化け物だ。
 ユーは間違ってなんか無い。」
 呆然とするユーチャリスにローズはそっと微笑む。
その言葉にユーチャリスははっと驚くと、
黄色で縁取られた青い眼から目を離すことができなくなる。
「闇の水晶に何度も何度もみんなの心の闇を見せられていた。
 意図しなくてもそれは聞こえていつでも見せられる。
 あったときからユーの心はわかってた。ごめんね…辛い思いをさせて…。」
「お兄ちゃん…。」
 もう一度微笑むとユーチャリスの額に自分の額を乗せた。
 
 
「もうユーが悲しまないようにしてあげる。もう僕を思い出すことも無いように。」  

「ちょっとまって…お兄ちゃん…。いや…。そうじゃないの…」
 首を振ろうとするユーチャリスを固定し、ローズは目を閉じる。
動けないユーチャリスは必死に首を振りほどこうとし、悲しみに眉を寄せた。
「だめ…。やめて…お兄ちゃ…。」
「バイバイ…僕の最愛の…妹…ユーチャリス。――!」
 あわせた額からまばゆい光が放たれ、ユーチャリスはローズの腕の中へと倒れこんだ。
一度だけ強く抱きしめると呆然としていたソーズマンにもたれかけさせる。
「チューベローズ…これでよかったのかい?」
「クラリスさん、ユーのことお願いします。時期に目を覚ましますが…。
 プリーストとの待ち合わせがあるので。
 ソーズマン、アーチャーとファイターによろしく伝えといて。」
 立ち上がったローズに声をかけるクラリスに、
ローズは後ろを向いたまま答えると一瞬の瞬きと共に姿を消した。