希望を託されたもの達

 
 

 窓から荷物の積み込みを見守っていたガレオンは寒さに両手をこすり合わせた。
現在いるのは最北の国ヴァッカーノ国。
この国にいる間は船室をすべて閉め切り、外に出る場合は防護服を着なければならない。
もっとも、この国の冬場に防護服なしで出るのは寒さもあって厳しいのが現状だ。
夏場でさえ涼しいといわれる気候の中、防護服を着るのは苦ではない。
 
 この国には昔いた偉大な科学者によってバカニナールウイルスというやっかいなものが無数に飛んでいる。
 この国出身でなければ数時間はいても発症せず、すぐに国の外に出ていけばウイルス自体は消滅してしまうらしい。
そのため、自国に帰ってもだれかに感染するという話は一切ない。
 ぽーんとランプがともり、すべての積み荷が終わったことを継げる。
ガレオンは操舵室にいる他の船員に大きくうなずくと、船員は窓から手で合図を送った。
 手を振り、立ち去っていくヴァッカーノ国の人々はもう一度しっかりひもが固定されているかを調べ下りていく。
 別にこの国の人すべてが感染しているわけではなく、こうして正常な人もいる。
その中でこうして隔離しなくてはならないのがガレオンにとっては長年心に苦く感じることだった。
 モクリア国ではワクチンの研究がおこなわれているという話だが、肝心のウイルスは国外では生きていけないため、どうしてもこの国に訪れなくてはならないのが最大のネックだという。
 まぁ、それでこれまで何人もの科学者たちが感染なしでいられたためしがなく、せっかくの頭脳が奪われてしまうという状況ではためらうのも仕方がない。
 ほぼ無風の港に突然風が吹くと、あっという間に帆が膨らみ外海へと進む。
これもヴァッカーノ国にある科学の力というやつで、何がどうなっているのか、それさえも現在の科学者たちにはわからないらしく、ボルケーノ国という名前だった時代のヴァッカーノ国の科学力がどれだけ高いのかよくわかるものの一つだった。
 
 港に入る時は風は港に向かって吹き、出るときは外へと押し出す風が吹く。
見習い船員だったころは驚いていたが、それももう何十年と乗って船長になってしまうと新人の反応を見て楽しむほど慣れてしまった。
 
 
 甲板には現在誰もいない…いや、「人」ではないものではあるが、2台ほど動いているものがいた。
 以前は掃除用で勝手に動く「機械」とやらで、家で動いていたそうだが今は甲板を掃除しながらある重要な役目を担う、なくてはならないものだった。
 
 ヴィオ、と名付けられているその人形の胸には赤いランプがともっており、ガレオン達はそっとそのランプの色を見守り続ける。
 何度か点滅するとそれは青に変わり、ヴィオも気がついたのか伸縮可能な腕を伸ばし、ガレオン達に手を振って見せた。
 何か使命を与えられた子供が無邪気に手を振るように見えて船員たちの間からもほっと息が漏れる。
 扉を開け、外に出るとヴィオは短い脚を動かしやってきた。
「ウイルス、カンゼンショウメツカクニン。ダンナサマ、マミーノチョウシガワルイノデ、メンテナンスニイコウシマス。」
 少々聞き取りづらい声でヴィオは報告すると、くるりと背を向けもう一台の人形の元へと向かう。
 どうしたと、ついていくとヴィオが海に落ちないよう、細い紐でつながっている先の少しどっしりとした人形がぎこちなく動いていた。
 天候や目的地をいち早く発見し、周囲が海しかなくてどこにいるか分からなくなっても的確な現在地を知らせてくれる「機械」のホシはヴィオに後ろのカバーを外した中を見てもらいながら静かに海を眺めている。