ホシはそんなヴィオの様子を窓から見つめ、プログラム外のあることを思い出していた。
もともとホシは子供の遊び道具として作られた小さな玩具で、ヴィオもその一つだった。
仕事で忙しい合間を縫って夫が作り、妻と子でいろいろ教えてあげた小さな玩具。
もはや会うことの叶わない夫は何を思い、そして自分たちを作ったのか。
それはきっと永遠にわからないことなのだろうと、ホシは視線を部屋に戻しそっと自分のコア部分のさらに奥にある扉のロックを確認する。
夫が作ったウイルスの完全なる資料とワクチンについての途中経過の資料。
大切なものだからと、海鳴石発掘所で管理をすることになった自身にこれを守るプログラムと資料を入れた。
このまま科学が進めば魔物を滅ぼすだけでなく、地球を人間が食いつぶしてしまう。
だからいつか無差別に攻撃できる兵器を作り出したら、自分はこのウイルスを作る、と。
だけども、彼は周囲が海鳴石発掘の評価をせず、まがいものを評価したことに荒れ、その他の分野でもタイミングが悪くいつも評価されず…いつもはそばにいた妻子もいなくてだんだんと狂ってしまった。
発掘所に来なくなった後、ティートが教えてくれたのは兵器を作って評価されたいという彼だった。
でも作られたのは守るための兵器…誰も傷つけない夢のようなそんな道具。
そしてあの日。
ウイルスとワクチンを持って現れた彼は、ワクチンの資料を新たにくれた。
その時に新たな能力と、とんでもないことをしたという彼の懺悔を受け取った。
その彼が動かなくなる前、機能停止していたのをこの船の最初の船長にヴィオともども譲渡されていった。
それ以降、ヴァッカーノ国には降りていない。
そしてこの資料についてもだれにも教えたことはない。
いつかこの体が壊れてしまいヴィオだけになった時、この身ごと海に捨ててもらおう、と希望を堅い体にしまいこみ、自分の記憶にも制限をかける。
あの親子はもういない。
自分たちはただ、妻子の名前と記憶を受け継いでいるにすぎない。
そしてこのプログラムにない行動は、きっと”ホシ”が入れてくれた形のないプログラム。
けっして心ではない。
今与えられている仕事に打ち込むため、もう一度窓の外に目を移し、そのまま空を見上げた。
海鳴石発掘所で見たあの時の空と変わらない、暗い宇宙にただよう星々に明日もまた快晴だと、判断した。
-fin
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