勇者と魔王最終決戦…のはず

 
 
 剣と剣がぶつかり合う甲高い音が洞窟のような城のような空洞に響きわたる。
時折爆風が上がるのは魔道師の呪文による攻撃だ。
 軽々と火の玉を避け、襲い来る大男の拳を避け蹴りを入れると背後からの青年の斬撃を大剣で受け止め弾き飛ばす。
 翡翠のような青い髪をなびかせ、一人戦うのは魔物たちの王アクアリウス。
端正な顔つきは一見すると青年に見えるが300歳は超えているという話だ。
「くそっ!ちょこまかちょこまか…。」
 やや明るめの短い髪を逆立てた勇者は苛立ったように剣を薙ぎ払い、大きく舌打ちをした。
長い戦闘で疲労の色を浮かべるが魔王はまだ余裕の笑みだ。
 剣と剣がぶつかり合い、魔王と勇者は顔を突き合わせる。
 
「その程度か人間。」
「このくそぉ!」
 じりじりと力負けする勇者は赤い髪に負けじと顔を赤らめ、歯を食いしばった。
このままでは負ける。
内心冷や汗をかく勇者の剣ははじかれ、魔王の剣がぎらりと光る。
仲間の魔法が唱えられるより先に剣が振り上げられ…。
「っ!」「なっなんだぁ!?」
 突然の光に魔王は目を細め、勇者と共に光にのまれていく。
 
 
 光の中、眩い光が手の甲に走り、そこから伸びる光の筋が魔王の手の甲につながった。
 光がやむと繋いだ光は消えたものの、手の甲には複雑な紋様が残されていた。
アクアリウスも何が起きたのかと、長い爪のあるいつもの手に勇者とは違う紋様を見つけ、まじまじと見つめた。
「ごっめーん!!」
 思わず戦闘をやめてしまった二人に明るい声が届く。
魔法を放とうとしていた黒魔導師も、技を使おうとしていた格闘家も、二人が見つめる先を振り向いた。
 その先ではほわほわと飛び出た前髪が特徴的な少女が両手を合わせ、
必死に頭を下げていた。
「えぇっと…ピスケス?もしかしてこれ…お前のせい?」
 これ、と手の甲を見せる勇者に白魔導師、ピスケスはてへへへと笑いはっきりと頷いた。
「何だこれは。」
 アクアリウスは右手で擦ってみるが、焼きついたようなこげ茶の紋様は全く薄れる気配がない。
高齢な彼でさえ見たことがないらしいのに勇者の顔はひきつった。
 
「えぇっと…たぶん。一心同体の…おまじない…かなぁ?」
 目をそらし、考える風のピスケスに一斉にため息をつく。
白魔導師だっていうのに何でそんな魔法を、とか、
大事な時に何を、とか、
さまざま言いたいことはある。
「ピスケス…お前…。白魔導師だろ。」
 呆れたように口を開く黒魔導師に小さく舌を出し、軽く頭を押さえて見せた。
「あぁ!二人とも絶対今戦わないで!
 今二人の命繋がっちゃってるから!」
「「はぁ!?」」
 手を振るピスケスに勇者と魔王の声が見事に重なる。