飛んでいく子供達を見送る一行と魔王は幌から顔を出し、手を振る子供達に手を振り返す。
ほっと息を吐くアクアリスは先ほどの気のふさぎ込みはどこへやら、晴れ晴れとした顔で手を振る子供達に軽く手を上げた。
一行達の目では見えなくなってもどうやら見えているらしく、何かにこたえるように手を動かす。
 
「さてと…。旅の続きがてら…宝珠の娘を探さないとな…。」
「宝珠って…どんな姿をしているんだ?」
 やれやれ、というアクアリウスにサジタリウスは首をかしげる。
珍しい種族なため姿を知る者は少ない。
 子供達が幌にのる前に魔王に頼んだ事…ここにいた宝珠という種族の子供が町に買い物に行った際、連れ攫われてしまったらしい。
宝珠は元々が宝石から生まれ、宝珠が宝石に魔力を送ることで新しい宝珠を生み出し、増えていく魔物の中でも特に変わった性質をもった種族だ。
そして体からは血は流れず、全て鉱石へと変化する。
そのおかげで乱獲され、アクアリウスの納める城下で手厚く保護されているほど数は少ない。
おまけに、体から鉱石を生み出すのも新しい宝珠を生み出すのにも限度があり、限度を超えた宝珠は特殊な宝石へと姿を変える。
 アダマスという子供は宝珠の中でも珍しく、価値の高い金剛石の宝珠だという。
一番人間に変化するのがうまかったため、ゴブリンがいなくなった後買い出しに行き正体がばれ捕まってしまったのだとか。
 見た目が女性だったため娘と言っているが元々性別はない。
見る人によっては少年に見えるが子供達も本人も女として扱うのでいいと言っていたためアクアリウス達もそのように呼ぶことにした。
「見かけはそうだな…主に元になった宝石に反映して髪の色や外見が決まるが…。金剛石を核にするにはかなりの力が必要だとかで、見たことがないな。まぁ近くにいれば私がわかる。」
「それで…どうすんだよ。どうやって探すんだ?」
 師匠の足取りは今回同様に憲兵らに話をつければいいが…攫われた魔物の子供と言うのは公に探すことができない。
 自分達の行動の結果で起きてしまったことにアリエスは責任を感じていた。
「そうだな…。少々強引だが…できなくはない。まぁ…少し協力してくれ。」
 
 
 一晩立ち、山を降りた一行は待ちかねていた村人に一晩話して作り上げた嘘の報告をする。
子供達はすでにいなくなっていたため、旅先で探すというと村人たちは苦々しげに悔しげに舌打ちをした。
「それじゃあ…。本当にすみません。」
 ピスケスはアクアリウスの推測が正しかったことに唇を噛みながら、打ち合わせ通りの言葉を言う。
村長…リーダー格の男はそんな彼女の心情をわかるはずもなく、いえいえ私達も探しますから、と返した。
 先に一行が歩き、遅れてアクアリウスが後を追う。
見送る為、後を追う村長だが、一行が角を曲がったところで離れて歩いていたアクアリウスに腕を掴まれる。
 
「なっなんです…ひっ…」
 絶対に振り向くなというアクアリウスの言葉があったため振り向こうとは考えていなかった一行だが、まがまがしい気配に肌を粟立てた。
【貴様らが攫った宝珠の子供はどこに売りつけた。答えろ人間!】
 深く地の底から聞こえるかのような声に驚き思わず足を止める。
震える村長の声と村人たちの声が聞こえ、角から若干見える黒いオーラに思わず竦む。
 憲兵達からはまだ離れていたため騒がれていないが、角の向こうで魔王は何かをしているらしい。
それも一行の前ですら見せていなかった魔物の本性をむき出したかのような手段をつかって。
【さっさと答えろ人間!我の牙に噛み砕かれたくば黙っているのもよかろう…。】
「ふっふたつ向こうの町に売り飛ばした!ほっほんとうだ。だっだからいっ命だけは…。」
【虫のいいことを…。貴様らが殺させたオックスは我の甥の息子だ…その罪だけでも許し難し…。されど我は“約束”を守らねばならぬ。】
 怯えた声に魔王の声は苦々しげに答える。魔王の言葉に村人たちはほっと息を吐いたが、何かあったのか息をのむ込む音がし再び黙り込む。
【黙れ人間!我は約束を守るが、貴様らの名を再び我らが耳にした折は一夜にして貴様らを全て…女子供に至るまで…逃げた先を突き止め我が精鋭たちが追いまわすだろう。】
 いいな!というと辺りに漂っていた殺気が消え、角から額当てを直すアクアリウスが現れた。
 
「さて…。行くぞ。」
「おっおう…。お前顔色悪くね?」
 さっさと歩くアクアリウスを慌てて追うアリエスはすれ違った瞬間の顔色にぎょっとする。
「気にするな。元の肌色に戻るのに時間がかかっているだけだ。」  ほとんど蒼白と言って違わないアクアリウスは足早に村をでると、深くフードをかぶった。
 



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